男は0.9票、女は1票、と定める選挙法があると仮定しよう。女も男も、「それはオカシイ」と言うであろう。選挙権の性による差別は不正義だからである。 ところが、選挙権の住所による差別は、この1票対0.9票どころではない。衆議院選挙での高知3区の選挙権を1票とすると、埼玉4区の選挙権は、0.6票の価値しかない。現行の公職選挙法上、大多数の国民は、一票未満の選挙権しかなく、二流市民扱いされている。 だが、「一人一票」を実現する方法がある。それは、国民が国民審査で、一人一票反対派判事に有効投票の過半数の不信任の×印を付けて、罷免する方法である。 私は、昨年の4月迄、最高裁裁判官国民審査(国民審査)が、憲法に定められた最高裁判事罷免権の行使の手続であることに気づかなかった。最高裁判事を罷免する権利など、およそ現実味をもって考えられなかったのである。 しかし、改めて、国民審査の問題を考えてみよう。国民は、国民審査で、有効投票の過半数により最高裁判事を罷免する権利を持っている。ところが、罷免権が参政権であることは、国民に十分知られていない。そして、各最高裁判事を審査するための情報、例えば、「一人一票賛成派」なのか、「一人一票反対派」なのかという情報も、国民はよく知らない。そのため、多くの国民は、国民審査では、投票用紙を白紙のまま投票している。 しかし、国民がひとたび一人一票反対派判事の名前を知れば、国民審査で有効投票の過半数の×印が付いて、同判事が罷免されることがあり得よう。 ポイントは、国民審査権が、参政権であるということである。そうである以上、国民は、参政権を行使するために必要な各判事の情報を知る権利がある。報道機関も、この国民の知る権利に答えることになろう。 昨年8月30日の国民審査の有効投票は、6700万票弱。その過半数となると、一人一票反対派判事の罷免は無理ではないかとの懸念もあり得よう。しかし、経済人らによって設立された「一人一票実現国民会議」(私も発起人の一人)のホームページのネット投票の参加者(28,183人)の91%は、一人一票反対派判事に×印を付けている。 同会議は、先の国民審査日直前の1ヶ月間に、一人一票反対派の2判事の名前を記した新聞意見広告を出した。その結果、2名の判事の各々に、77万個の×印が、基礎票とも言うべき1人当たり420〜440万個の×印に追加された。これらのデータからみて、国民が、ひとたび一人一票反対派判事の名前を知れば、同判事の罷免もあり得よう。 9月30日、最高裁は、参議院議員選挙無効裁判の判決を下した。 多数意見(15名の中の10名)は、1対4.8倍の一票の最大格差そのものを「合憲」としなかった。多数意見は、国会が一票の格差を本件選挙日迄に改正しなかったことが、裁量権の限界を超えたとまでは言い切れないとし、かろうじて「違憲とはいえない」とした。そして、多数意見は、1対4.8倍の一票の格差を「大きな不平等」と明言した。この明言は、従来の最高裁判決からみて、激変である。他方で、5名の反対意見は、違憲としていた。 1983年、米国連邦最高裁は、連邦下院選挙で1対1.007倍の投票価値の最大格差ですら、違憲・無効とした。日本でも、一人一票賛成派判事が多数(8名)となれば、最高裁は、「一票の不平等は違憲」との判決を下す。最高裁判決は、憲法違反の法律を無効にする力がある。そうすれば、「一人一票」が実現する。日本は「法の支配」の国である。国会議員は、最高裁の違憲判決に逆らうことはできない。 私を含む弁護士有志らは、昨年9月末、先の衆議院選挙の選挙無効を訴えて全国7高裁1支部で訴訟を提起した。山口グループの東京高裁判決(違憲状態判決です)を含むと現在まで6勝1敗。大阪高裁、広島高裁、福岡高裁、名古屋高裁は、先の選挙を「憲法に違反し違法」、東京高裁、福岡高裁(那覇支部)は、「違憲状態」と判断した。残すは私共の提起した高松高裁訴訟、札幌高裁訴訟の2事件で、判決言渡日は、それぞれ、4月8日、同月27日です。 最高裁裁判官一人一人の意見に注目したい。 関連サイト: 「升永ブログ」 「一人一票を実現しよう」HP 「一人一票実現国民会議」HP
記
伊藤塾 明日の法律家講座 東京校 第162回 升永英俊氏 【タイトル】「あなたの選挙権は、一票未満の価値しかありません!〜一人一票を実現しましょう〜」 【日時】3月27日(土)18:30〜20:30 詳しくはこちら
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