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書籍『自衛隊と憲法—これからの改憲議論のために』

S.K

 2017年の安倍首相のビデオメッセージをきっかけに、9条に自衛隊を明記する改憲が進められようとしています。本書は、政府解釈や憲法体系を全く理解していない者の持論が蔓延し、有害無益な議論がなされていることを危惧する憲法学者の木村草太氏が、理性的で開かれた議論のための土台となる正しい知識を確認するための1冊です。
 まず序章では憲法改正手続きの解説がなされています。ここでは、憲法改正限界についても触れられています。著者は憲法9条1項や、憲法97条の文言から、侵略戦争の禁止や基本的人権の尊重を改正限界とする解釈を導くこともできると述べ、改正限界を超える改憲が可決してしまった場合にどのような訴訟があり得るかも検討しています。
 第一章では、武力行使に関する憲法条文を国際法に違反する内容に解釈・変更してはならないことから、国際法の内容が解説されています。武力不行使原則(国連憲章2条4項)が確立した経緯、安保理決議に基づく国連軍・多国籍軍の集団安全保障措置、安保理決議までの間、各国に認められる個別的自衛権と集団的自衛権、自衛権の行使条件である「武力攻撃」「必要性」「均衡性」の内容などが大変わかりやすく解説されています。
 著者は、今の国際法の立場を「多くの人の正義感情に適うもの」と評価した上で、武力行使を正当化する根拠はとても濫用されやすく、国際法上の権利濫用を防ぐためには、各国で武力行使を厳密にコントロールし、国際法違反を防ぐ憲法・法律、行政上の仕組み、司法システムの整備が必要であると指摘します。
 そこで第二章では日本国憲法が武力行使についてどのような態度をとっているかが確認されます。ここでは憲法9条の解釈につき「芦田修正説」と「武力行使一般禁止説」が紹介され、「芦田修正説」には致命的な欠陥があり「武力行使一般禁止説」が妥当であることが理論的かつ明快に指摘されています。
 第三章では、2014年7月1日の閣議決定を素材に、政府が憲法9条の解釈として「武力行使一般禁止説」を採り、平和的生存権を宣言した前文と憲法13条から「我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置」は例外的に許容されると解釈してきたことを明らかにしています。また、9条2項を13条の趣旨と調和するように解釈し、自衛隊は保有の禁じられた「軍」・「戦力」にあたらないとしてきたことも解説されています。さらに、国の防衛に関する事務は、一般行政事務され、「自衛隊は、憲法72条に規定された『行政各部』」に含まれていることを説明し、「憲法には、自衛隊のことが書いていない」というのは誤りだと指摘します。また、自衛隊の海外派遣は、派遣先の国の同意を前提に、治安維持やインフラ整備などの行政活動を外交協力として行っていることなどもわかりやすく丁寧に解説されています。
 第四章では、政府の憲法9条の解釈を裁判所がどのように評価してきたかが判例を基に検討されています。ここでは2015年の安保法制の審議の際に、集団的自衛権の行使を容認しているとして引用された砂川判決も紹介され、引用が明らかな誤りであることも指摘されています。
 第五章では、自衛隊関係法の体系がどのようになっているかが整理されています。これを読むと、どのような法によって自衛隊にどのような活動が認められているのか、自衛隊に関する法律が相当程度に合理的な体系となっていることがわかります。
 第六章では、2015年の安保法制法がなんであったのか、どこに問題があり、今後どのように考えるべきかが解説されています。
 第七章では自衛隊明記の改憲について検討されています。世論調査を分析し、多くの国民は従来の政府見解同様、自衛隊は9条に違反しない、集団的自衛権の行使容認にはかなり強い違憲の疑いがあると考えていることを指摘した上で、まじめに自衛隊の明文改憲をするなら任務の範囲を明確にしなければならないが、それで可決するのは困難なことから、おそらく任務の範囲を曖昧にする作戦がとられるだろうと述べています。また、ここでは政府解釈や憲法体系を全く理解していない者の国民に誤解を与えかねない持論を批判しています。
 第八章では、自民党の改憲草案の中でも極めて危険な緊急事態条項の内容や危険性、適切な法律により緊急事態に対応できることなどが解説されています。
 第九章では、その他の改憲提案として教育無償化、参議院の合区解消も解説されています。さらに本書では、2015年安保法制の強行採決の際、国会が立法した段階で具体的な事件がなくとも違憲立法審査ができる制度の導入の声が上がったことから憲法裁判所の設置の検討や、解散権の濫用対策としての衆議院解散権制限と憲法53条の期限設定についても検討がなされており、国民全体で議論する価値のある死刑制度や原発問題についても、憲法改正手続きに乗せてみても良いかもしれないとの指摘もなされています。
 護憲派、改憲派問わず、まさにこれからの改憲議論のために必読の1冊といえます。

【書籍情報】2018年5月に昌文社から刊行。著者は木村草太。定価は1450円+税。

【関連書籍・論文・HP】
書籍『子どもの人権をまもるために』
書籍『憲法の急所?権利論を組み立てる 第2版』
書籍『憲法という希望』
書籍『未完の憲法』




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