法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連書籍・論文>

 

書籍『ここまできた小選挙区制の弊害』

S.K

 安倍政権はわずか5年の間に閣議決定で集団的自衛権による武力行使を容認し、特定秘密保護法、通信傍受法改定、安保法制、共謀罪法など、問題の多い法律を数の力で次々と成立させてきました。そして日本国憲法の枠組みを壊す改憲が進められようとしようとしています。
 本書は、この改憲阻止のためには、小選挙区制の廃止を含めた選挙制度を抜本的に見直させる民主主義運動が不可欠であると考える憲法学者が、選挙制度の仕組みや現在の制度の深刻な問題点、憲法上禁止・要請されている選挙制度などについてわかりやすく解説し、憲法の要請に応える具体的な選挙制度の改革案を提示する1冊です。
 第1章では、選挙制度について総論的な解説がなされており、諸外国の選挙制度やドント方式などについても大変わかりやすく説明されています。
 第2章では、衆院小選挙区選挙と参院選挙区選挙の問題点が明らかにされています。
 小選挙区制が膨大な「死票」を生むこと、得票率と議席占有率が乖離し、民意が歪曲されること、過半数にほど遠い得票率にもかかわらず、与党が衆議院選挙で「3分の2」の絶対多数の議席獲得を許してしまう制度は、二院制の意義すら喪失させる重大な問題であることなどが解説されています。
 第3章では、選挙結果に連動している政党助成金が自民党への過剰交付と中小政党への過小交付を生み出しており、自民党の政治資金がバブル状態にあることや、「政治とカネ」の問題、小選挙区中心の選挙によって国民の多数と国会の多数の逆転現象が起きていることなどが述べられています。さらに、自公政権・与党の過剰代表と革新政党の過小代表が生み出された結果、立憲主義と民意が蹂躙され、「聖域なき構造改革」によって格差社会が生み出されたことなどが解説されています。
 注目すべきは何と言っても第4章、第5章でしょう。
 第4章では、憲法が禁止・要請している選挙制度についての考察がなされています。
 裁判所は選挙制度について憲法47条の規定を根拠に「国会の裁量」を広く認め、小選挙区選挙も違憲ではないと判断してきましたが、著者は、憲法の主要な中身が「憲法の下位規範」である法律によって基本的にすべて自由に決定されるというのは憲法の最高法規性から考えて許されないとしています。立法府である国会の多数派は権力欲の為、自分たちの都合の良いように選挙制度を決定する危険性が高く、そもそも近代以降の憲法は国家権力の暴走に歯止めをかけるために存在する法であり、憲法が与党の暴走の危険性に対し、大きな歯止めをかけていないと理解することは立憲主義の考え方からして許されないと述べています。
 そして、具体的な憲法上の要請として、まず「投票価値の平等」について、憲法14条・44条から、投票価値がどこの選挙区と比較しても1対1になるよう義務付けられていること。また、憲法が二院制、参議院を採用している意義から、衆議院において「議会内多数派」(与党)が容易に「3分の2以上」になる結果を招く選挙制度を禁止していると解されること。少なくとも与党の得票率が全体の「3分の2未満」なのに議席占有率が「3分の2以上」になるような選挙制度を採用することは絶対に許されないと解釈すべきと述べています。
 さらに、明らかに過半数を大きく下回る得票で半数を大きく超える議席を獲得できる選挙制度は三権分立制の趣旨と、議院内閣制を採用していることから許されないと解すべきとし、これらの要請を満たさない、衆議院小選挙区選挙、参議院選挙区選挙は、憲法41条、53条、55条、56条、57条、58条、59条、61条に反し違憲であると述べています。
 またここでは、議員内閣制を採用している国の権力分立制については「議会内多数派=内閣」対「議会内少数派」の対立図式でとらえるという現代的権力分立制の考え方も紹介されています。
 著者はさらに、裁判所は国民が選挙結果について提訴した場合、衆議院の小選挙区選挙も参議院の選挙区選挙も、選挙権・被選挙権を侵害し違憲であるとして無効と判決すべきであるとし、判決時点で無効とすれば大きな混乱は生じないし、1度目はいわゆる事情判決がやむを得ないとしても、2度目は無効と判断すべきで、衆参共に比例代表選出議員が選出されている以上その各議員だけで選挙制度の法律改正を行うべきとも述べています。
 第5章では、まず、議員定数について、保守政党は経済界の要請に応えて議員定数削減を主張し続けてきたが、国際的にも国会議員数は少なく、官僚依存政治から脱却するため、また、"国民の縮図"の精度を高めるためにも議員定数は多いほうが良いと述べています。
 その上で、著者は憲法の要請に応える具体的な選挙制度を2つ提案しています。
 1つ目は衆議院を比例代表(ブロック制)選挙一本、参議院を比例代表(全国1区)選挙一本にする案で、衆議院の定数は600、参議院の定数は300とする案です。議員歳費についても検討されており、年間319億の政党交付金の45%をまわせば実現可能であるとしています。2つ目の案は、議員定数を事前に決めず、衆議院は"10万票毎に1議席"参議院は"30万票毎に1議席"とする比例代表制です。2017年の衆院選と2016年の参院選の結果と比例票での試算がなされています。さらに著者は供託金制度の廃止や立候補要件の撤廃などの法改正、過渡的な案や「参議院の合区解消」の改憲論などについても言及しています。
 今の政治状況の元凶である選挙制度の抜本的な改革を求める運動がこの書をきっかけにさらに高まっていくことを切に願います。

【書籍情報】
2018年2月にあけび書房より刊行。著者は上脇博之。定価は1200円+税。

【関連書籍・論文】
書籍『追及!安倍自民党・内閣と小池都知事の「政治とカネ」疑惑』
書籍『安倍改憲と「政治改革」』
書籍『誰も言わない 政党助成金の闇 −「政治とカネ」の本質に迫る』
書籍『告発! 政治とカネ』



[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]