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書籍『憲法を百年いかす』

S.K

 安倍首相主導で日本は急速に戦争のできる国へと変貌されようとしています。本書は憲法を「守ろう」とするのではなく、「この憲法を生かして広めたい。積極的に世界に広めていけば、この憲法の良さは必ずわかってもらえる。広めるために、百年この憲法を保持しつづけていく。そうしたら、ついてきてくれる国が必ずある」という立場で、政党間でも国民の間でも憲法議論が全く足りていないと危惧する昭和史研究の巨星二人の対談をまとめたもので、憲法の歴史を振り返り、憲法の真意と価値を語りつくした一冊です。
 著者の半藤氏は1930年に東京で生まれ、東京大空襲を経験。疎開先の茨城県下妻市では米軍の機銃掃射を浴び、さらに疎開した新潟県長岡市でも空襲を体験しています。日本国憲法制定当時、半藤氏は16歳、もう一人の著者である保阪氏は小学校2年生でした。
 第一話では、「勅語」をめぐる思い出や、「防空法」や「治安維持法」にかかわる思い出、身近な人びとの様子などから、戦前戦後の教育や当時の人々の思い、戦禍の焼け跡から生まれた新憲法に"希望"をみつけた人々の様子が語られています。またここでは、2017年3月31日の閣議決定は今の教育現場に教育勅語が復活する余地を公式に認めたもので極めて重大な問題だとの指摘もなされています。
 第二話では、近代日本の軍事や憲法をめぐる歴史的な流れが解説されています。どのような流れの中で日本帝国憲法が生まれ、その後、統帥と政治がいかにして二元化していったのか。政治と軍部、与党と野党、軍部の内部抗争といった対立構図の中で統帥権がどのように利用されていったのか。大日本帝国憲法で軍事規定が脆弱だったことが昭和史をあらぬ方向に導いてしまったことなどが明らかにされ、自民党や安倍政権が進めようとしている改憲の危険性がよくわかります。憲法議論の中で大日本帝国憲法のことはほとんど論じられていませんが、著者らのいうようにいまの憲法の反面教師として大日本帝国憲法に学ぶことが実にたくさんあると感じさせられます。
 ここでは、太平洋戦争開戦を決定した大本営政府連絡会議という機関がその権限について憲法上なにも明文化されていないにもかかわらず、誠に重大な国策を実質的に決定していたプロセスは憲法違反だったとの指摘もなされています。
 第三話では、日本会議の目指す改憲、自民党憲法推進本部の目指す改憲、「安倍の参謀本部」の目指す改憲などについて考察されています。半藤氏は、戦争国家体制というものがあるとすれば、そこには軍事機密保護、国家総動員、治安維持、それとメディア規制という四つの条件があると指摘しており、共謀罪や特定秘密保護法、緊急事態条項の危険性などが、実体験や例をあげて実にわかりやすく語られています。
 著者らは、自民党草案は危険性がはっきりしていてわかりやすいけれども、3項の加憲は議論になりにくく危険極まりないとし、「安倍政権がわずか5年の間に成立させてきた集団的自衛権による武力行使の容認、特定秘密保護法、通信傍受法改定、安全保障関連法、共謀罪法をつなげてみると独自の新しい憲法案を漠然と示しているように思える。残るは緊急事態法。これさえ通してしまえば戦争に向かって何でもやれる。それに反対するものは共謀罪で取り締まって黙らせればいい。憲法改正は9条3項に自衛隊を明記するだけでいい。」「安倍の参謀本部」のやり方には「具体的に明記しないまま戦争をする国に変えてしまう巧妙さがある」「ファシズム体制が戦争に直結してしまうことは歴史が示しています。戦前の日本を見てみると、戦争を起こすときは、その直前に加速する。アクセルをグッと踏み込むときがある。そのとき必ず演出されるのが国難です。」「国難が叫ばれたときに、国民の側に、加速をさせない知恵があるかどうか。」と述べています。
 第四話では、日本国憲法がいかにして生まれたのかが様々な資料に基づき詳しく語られています。戦争放棄は幣原喜重郎の発案であったことや、国会ではじつに1365回の大臣答弁がなされ細かいことまで議論が尽くされたことなどを明らかにし、「押しつけ憲法論」は歴史への冒?であると批判しています。さらにここでは、「安倍の参謀本部」がナチスの手口を十分に学んでいることが指摘され、ナチスの手口についても解説されています。
 第五話では、安倍首相の「戦後レジームからの脱却」の真の意味、井上達夫氏の「九条削除論」「消極的正戦論」批判、柄谷行人氏の九条論や森嶋通夫氏の安全保障論、戦争絶滅間違いなし法案なども紹介されています。
 国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を原則とする『日本国』を、『戦後』を私たちが終わらせてはいけない。そのための叡智のつまった一冊です。

【書籍情報】
2017年12月に筑摩書房より刊行。著者は半藤一利氏、保阪正康氏。定価は1600円+税。

【関連書籍・論文】
書籍『日本人の「戦争観」を問う 昭和史からの遺言』


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