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書籍『憲法の急所—権利論を組み立てる 第2版』

M.I

 気鋭の憲法学者による待望の最新版です。書名にある「急所」とは将棋好きの著者らしい名付け方で、将棋において急所とは、その箇所を破られた瞬間、陣形が崩壊する攻防の焦点を言い、将棋で勝つには急所を掴むことが肝心とのことです。このことは、法律論にも当てはまり、議論の急所に焦点を当て、主張を積み重ねることで、優れた法律論が組み上がると著者は言います。
 この著者の問題意識に沿って執筆された本書は、従来ある憲法書とは趣の異なる一冊となっています。通常の基本書のように条文の立法趣旨や制度趣旨から始まり、定義、要件、効果、そして重要論点と関連する主要判例の解説という順序は踏みません。それらは第3章「憲法上の権利概説」として簡潔な権利各論にまとめられています。本書はまず第1章「憲法上の権利の基礎知識」で憲法上の権利の概念を分類します。著者らしさが現れているのはその厳格さで、自由権も、表現の自由など「国家行為の類型を問わず、あらゆる国家行為から国民の特定の行為を保護する自由権」を「防御権」、検閲の禁止など「特定類型の国家行為を禁止する自由権」を「特定行為排除権」と名付けます。防御権制約の違憲審査基準も細かく分類され、表現の自由の制限する時の定番のひとつ、「LRA(より制限的でない他の選びうる手段)基準」を使えば大丈夫だと基本書を読んでいた学習者は驚くことでしょう。
 第2章「憲法上の権利の基本手順」では、憲法上の権利論を組み立てる具体的な方法が講義されます。この組み立て方の基本手順が実に緻密で、例えば戸別訪問の禁止(公選法138条)と表現の自由の事例では、論じ方が「第一段階 典型的適用例審査(法令審査)」として「1.憲法問題の設定」1-1国家行為と根拠法の画定:公選法138条1項に基づく処罰、1-2適用例の区分:戸別訪問は同意の有無などで区分可能、1-3審査方法の画定:公選法138条1項の典型的適用例審査、1-4制約された行為の画定:被訪問者の同意がないなど悪質な戸別訪問、1-5問題となる権利の画定:表現の自由(憲法21条1項)として始まり、以下「2.実体判断」、「3.当該事例の処理」、更に「第二段階 当該適用例審査(処分審査・適用審査)」と続き、そこでも「1.憲法問題の設定」、「2.実体判断」、「3.具体的処理」と議論の流れが提示されます。まさしく絨毯爆撃のような明晰な論理展開で、これさえマスターすれば、初学者にありがちな「どう書けばいいのか?」という疑問は解消するであろうことが想像できます。
 著者の真骨頂は、本書の後半3分の2を占める演習編です。ここでは判例をベースとした9つの演習問題を素材に、具体的な議論の組み立て方が説明されています。ベースとなった判例は、国歌起立・斉唱拒否事件、立川反戦ビラ事件、広島市暴走族追放条例事件、生活保護申請却下・基準減額事件などマスコミでも話題になり、憲法上の問題として興味深いものばかりです。それぞれの事件が、憲法問題の設定、実体判断、具体的処理の順に従い論じられ、原告・弁護側の主張、被告・検察側の主張が組み上げられ、その間に多くのQとそれに対する解答が示されるソクラテス・メソッドによる検討・解説がなされます。それらの主張は図にまとめられ、ここでも将棋好きの著者らしく原告・弁護側の主張として「先手」を表す▲記号、被告・検察側の反論として「後手」を表す△記号付きです。最後に裁判官の判断が示されますが、読者自身の立場を仮定して読むと面白いでしょう。
 憲法の入門書を読み尽くした方、従来の基本書では今ひとつ満足できなかった方、憲法問題を実践的に主張するとはどういうことか知りたい方には、一段上の上級憲法書として手にして欲しい一冊です。

【書籍情報】
2017年3月に羽鳥書店から発行。著者は木村草太首都大学東京教授。定価は3200円+税。

【関連書籍・論文】
木村草太『憲法という希望』(講談社現代新書)
奥平康弘・木村草太『未完の憲法』(潮出版社)




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