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書籍『暴力はどこからきたか―人間性の起源を探る』

H・T


 筆者は京都大学大学院理学研究科教授で、霊長類社会生態学、人類進化論を専攻しています。20世紀の半ばに日本で生まれた霊長類生態学の京大チームの一人として長年に渡り、フィールドにて野生のニホンザルやチンパンジー、ゴリラの社会的行動の姿を追うとともに、その保護活動でも国際的に活躍され、日本霊長類学会の会長でもあります。アフリカの奥地で野生のゴリラと至近距離で「対話」している筆者の姿をテレビでご覧になった方も多いでしょう。

 近現代の世界の学者たちは、人間の祖先が森を出て草原で暮らし始めたとき、狩猟の能力や技術が発達し武器が生まれ、戦争が始まったと解説してきました。そして戦争は人間が本性として持っている攻撃性に基づくものだとして、戦争を正当化してきました。

 果たしてそうなのか―筆者は、狩猟採集民だった初期人類、さらには類人猿たちの生活を豊富に観察し研究することによって、歴史と人間の本性についての先入観を見事に打ち破っています。

 争いの一番の基になるのは食物の取り合いですが、類人猿の食には劣位者が食物を前にして優位者に自制を要求するという特徴があります。ゴリラの社会は、弱い者、小さい者を決していじめません。けんかがあれば第三者が割って入り、先に攻撃した方をいさめ、相手を抹殺しようとするほど激しい敵意を見せることはありません。チンパンジーもけんかをしても仲直りに積極的で、関係の破綻を常に恐れそれを修復しようとする強い傾向を持ちます。

 人類は、類人猿のこれらの習性を継承しさらに独自の食文化を発展させました。すなわち、仲間と一緒に食べるために食物を集めに行き、顔を突き合わせて食を共有しました。それは所有を前提として「分け与える」ことでなく、「分かち合い」(Sharing)の精神によって特徴づけられていました。(現在も残るコンゴのピグミー、カラハリ砂漠のブッシュマン、アラスカのイヌイットその他の狩猟採集民社会も昔と同じ「惜しみ無き分配の社会」です。)

 それが、約1万年前の農耕の出現で変化しました。土地所有が生まれ、広い土地を統括する者が同時に集団をも統括する支配者になりました。筆者は、支配者間の土地や境界を拡大する争いが戦争に発展する素地を作ったと考えられると記しています。

 動物観察者である筆者の目には、農耕民時代以降の人間は自分たちの領域に入ってくる動物たちはすべて害獣として排除するだけでなく、そうした態度を同じ人間にも向けるようになった、人間以外の動物にはみられない不思議な敵意をもった存在だと映ります。

 筆者が重視するキーワードは、「信頼」です。かつての人類は互いに信頼し合っていた故に戦争がありませんでした。憲法前文の「諸国民の信頼」を実現するにはどうしたらよいか、そして今様々な方面から提案されている人間の共生―平和やSharingなど―の問題を、人類の原初の精神に立ち戻って考えるうえで示唆に富む書籍です。

【書籍情報】山極寿一著 NHKブックス 2007年12月刊 本体価格970円+税

 

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