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書籍『ボローニャ紀行』

K・T


 小説、戯曲、エッセイと多才な活動を展開し、自ら旗揚げした劇団こまつ座の座付作者としても活躍。そしていうまでもなく、九条の会呼びかけ人のお1人。井上ひさしさんの『ボローニャ紀行』が文庫版で刊行されました。イタリアはボローニャの旅行見聞記にとどまらぬ憲法理念にかかわる鋭く深い示唆に富んだ一冊です。

 本書のキーワード、「ボローニャ方式」。ボローニャは大変歴史の古い街です。ヨーロッパで最も古い大学といわれるボローニャ大学は、西暦1088年に創立されました。ローマとヴェネツィアを結ぶ、そして南部タラントとミラノを結ぶ交通の要衝に位置し、物流と商業で栄えてきた街です。歴史的建造物も数多く残されています。これら建造物を壊さずに外観はそのまま残し、内部は市民の必要に応じて徹底的に改良して使う、これが「ボローニャ方式」といわれるもの。この手法は1970年代に世界中に知られるようになり、都市再生の世界的なモデルとなっていきます。これだけみれば、「ボローニャ方式」とは単なる都市(再生)計画のお手本か、と思われるかもしれませんが、実は、この「ボローニャ方式」を可能にしたその背後の思想――「ボローニャ精神」にこそ、重要な意味があります。

 「『過去と現在とは一本の糸のようにつながっている。現在を懸命に生きて未来を拓くには、過去に学ぶべきだ』/これがボローニャ精神といわれているものの本質です」(本書p.229)
 ボローニャは、第二次大戦後半、ナチスへの抵抗運動の拠点となった都市でもありました。その伝統から、戦後再建も革新派が舵取りしていくことになります。そのため保守的な中央政府からにらまれ、補助金を削られたり、ボローニャ製品の購入を拒まれたりするのですが、ボローニャの人と企業は、そこで中央政府の言いなりになるのではなく、生産品の販路を海外に求めることで成功をおさめていきます。

 このレジスタンス精神が、「ボローニャ精神」の源の一つだとすれば、もう一つの源は<イタリア憲法>そのものに求めることができるでしょう。本書ではイタリア憲法第1条「イタリアは、労働に基礎を置く民主的共和国である。/主権は、人民に属する。(後略)」とともに、第45条「(イタリア)共和国は、相互性の性格を有し、私的投機の目的を有しない協同組合の社会的機能を承認する。法律は、最も有効な方法により、その増加を推進し、助成し、(後略)」が紹介され、著者井上ひさしさんは、これを「互いに共生するための社会的協同組合をどしどし作りましょうと、人民が宣言し(中略)国家は、そのための法律をきちんと作りなさいと、これまた人民が国家に命令している。」(本書p.76)と説き明かします。この社会的協同組合が、ボローニャでも地域の活性化と住民の福利に重要な役割を果たしているのです。その実践例の詳細は、ぜひ本書でお読みください。地方自治・住民自治にとって貴重なヒントが随所で得られます。

 さて、翻って日本では“地方分権”、昨今は“地域主権”が喧伝されています。しかし、言葉の真の意味でそれが実現されるには、地域住民が<自分の住む街>を自ら作り上げる努力を惜しまず、<国>、中央政府と堂々とわたりあえる力量を蓄えること、その営みが中央の政財界から邪魔されない保障があること、が必要条件であることに本書は気づかせてくれます。<自分の住む街>と<国>との関係を改めて考えてみる機会となるでしょう。本書の解説は、「九条の会」事務局長の小森陽一さんが書いておられます。こちらも必見です。

【書籍情報】井上ひさし著『ボローニャ紀行』 文春文庫 2010年3月刊行(定価本体550円+税)

※本稿脱稿後、井上ひさしさんの訃報に接しました。故人の生前のご活躍を偲び、心より哀悼の意を表します。

 

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