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書籍『憲法9条と25条・その力と可能性』

K・T

2009年8月総選挙を経て、自公政権から民主党中心の連立政権へと、政権交代が起こりました。憲法「改正」をめぐる動向も、新たな様相を呈しています。
2010年5月の国民投票法施行を控え、今何が起きているのか、これからどうなるのか、関心の集まるところです。

本書は、これらの問いに答えるに、成立した現政権の現状分析もさることながら、戦後日本と日本国憲法の歴史的な検証によりいっそう、力点をおいているところに特徴があります。著者・渡辺治教授(一橋大学・関連情報12)は、本書“はじめに”で次のように述べておられます。「憲法が戦後の社会でいったいどんな役割を果たしてきたのか、あるいは果たせなかったのか、また現在はどんな力を発揮しているのか、またどんな限界があるのか、という点をふり返って」「その上で、憲法の理念を本当に実現するには、いったいどんなことが必要なのか」(p.15)

渡辺教授は、戦後、憲法「改正」への動きに抗する市民の運動のあゆみを辿りつつ、その中で憲法9条、25条がそれぞれ果たした役割、また運動がいかに9条、25条の内実を豊かなものにしていったか、その詳細な検討を試みています。ことに興味深いのは、“9条の力”、“25条の力”、二つのありよう、表れ方が大きく異なっているという点の指摘です。
9条も25条も、日本国憲法の構想した戦後の国家像・社会像の中で有機的に結びついているものです。ところが、「全体として、構造改革の推進に対する抵抗は、九条の改変に対するそれと比べると、ずっと弱かったのです。/その点に関係して、憲法との関係では、注目すべき事がありました。それは、軍事大国化に際して憲法九条がじゃまになったのとは違って、構造改革には、憲法二五条は障害物とはならなかったことです。(中略)二五条は、企業社会の形成に伴って貧困線の保障のための強固な制度作りがされず、また教育、介護、保育、医療などの制度が豊富化するのを押しとどめられてしまっていたためです。」(p.221)

「人間裁判」と呼ばれた朝日訴訟は、「健康で文化的な最低限」の内実を豊かなものにする一歩でした。しかしその後、時の政権は、企業社会・自民党利益誘導政治・脆弱な社会保障制度によって福祉国家を代替させ、25条のいっそうの具体化は阻まれた、と渡辺教授は分析しています。構造改革路線は、この代替システムをも破壊し、今再び25条を取りもどす運動、反貧困の運動が広がってきました。
本書からは、憲法という道具を使い込むことによって、道具の切れ味はいっそう鋭くなり、憲法という道具を使いこなすことによって、憲法の想定する国家・社会像を具体化することができるということに改めて気づかされます。

実は、気になる意識調査結果が出ています。本書でも引用されている読売新聞の09年4月の改憲をめぐる世論調査で、拮抗しているものの改憲賛成派が改憲反対派を上回った、という結果です。この実態を踏まえ、渡辺教授は次のように提言しています。政権交代を促した最大の力は構造改革に対する矛盾の爆発、国民の怒りと運動の昂揚にあり、今こそ政治を変える好機である。そして政治を変えるには「憲法改悪に反対し、その蹂躙に反対するところにとどまらず、九条や二五条の理念を実現する対抗構想を具体化する」(p.272)ことが必要だ、と。憲法理念を現実の社会に反映させるために、研究者、実務家、そして市民の連携は、今後ますます重要なものになると思われます。

【書籍情報】渡辺治著 かもがわ出版 2009年10月(定価 本体価格1700円+税)

※渡辺治教授には当研究所も製作・普及にあたったドキュメンタリー映画「戦争をしない国 日本」ブックレットに「国民は憲法とどう向き合ってきたか」を寄稿していただいています。あわせてご案内します。
※渡辺治教授の書籍・論文は当サイトの憲法文献データベースでも検索できますので、ご案内します。

 

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