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書籍『表現の自由―その公共性ともろさについて』

K・T

2008年12月刊行された本書から、第七章「立川反戦ビラ訴訟高裁・最高裁判決への批判」を中心にご紹介します。

著者毛利透教授(京都大学大学院)は、本書まえがきで、ご自身の問題意識について、次のように述べられています。@「あってもなくても国家の、あるいは市のレベルでも、意思形成に関係なさそうな表現行為を弾圧することが、なぜ民主的意思形成過程を歪めることになるのか」(p.E)A萎縮効果論という考え方について「萎縮するのもしないのも、自由を行使しようとする人間の判断に委ねておけばよいのではないのか。」(同)この挑発的ともみえる問題設定に対する一つの解答が、ある意味では立川反戦ビラ弾圧事件・高裁判決、最高裁判決への批判として結実しているように思われます。

本書第七章は、最高裁係属中に弁護人を通して毛利教授が提出された意見書に、その後出された最高裁判決への批判を加筆されたものです。
2004年12月16日東京地裁(第1審)判決で被告人らが無罪とされたのに対し、2005年12月9日東京高裁(第2審)判決は、逆転有罪判決を言い渡しました。この高裁判決に対し毛利教授は、表現の自由の行使に対する特別の配慮を全く欠いていること、ビラの配布行為よりビラの内容そのものへの居住者(自衛隊員)の“不快感”を住居侵入という法益侵害の根拠にしていること等を厳しく批判しています。ついで2008年4月11日最高裁判決に対しては、有罪の根拠に“被害届の提出”という事実を挙げていることや、「他人の権利を“不当に”害する場合」とやや限定的に判じていることなどから、高裁判決よりは、多少なりとも表現の自由への配慮を示しているとしつつも、現実に他人が自由に出入りしていた場所からの表現活動を理由とした恣意的な排除を司法が許すべきではないとしています。
(尚、立川反戦ビラ弾圧事件については、当サイトの関連情報1関連情報2関連情報3関連情報4関連情報5関連情報6等をご参照下さい。)

高裁判決・最高裁判決に対する毛利教授の批判は、市民活動の重要性を公共圏の観点から位置づけ、そこに参加する者が少数であればこそ、その自由を保障する必要性は高く、また萎縮効果除去のみならず、表現の自由を行使しようとする者のインセンティブを高めることが国に要請されるという独自の考え方に裏付けられ立論されているところに大きな特徴があります。
この点は、本書第一章で教授がハーバーマスの“公共圏”理論を敷衍しながら、表現の自由の行使は、他者への働きかけを前提するものであるから、それによって「依拠するに足る世論が形成されると考えることにより」(p.18)萎縮効果の除去を規範的に要求できると述べられていることや、第二章で「政治に参加する者は少数である」と言い切ったハンナ・アレントの主張を紹介しながら、あえて自らの利に直接はつながらない市民的自由を行使する少数者、いわば“変人”が「民主政を支えている」(p.46)のであり、「そして誰もが『市民』に、つまり変人になれることを保障するのが憲法の重要な役目である。」(同)と述べられていることに符合します。
社会学・政治学から憲法学への照射が示唆され、それが立川反戦ビラ弾圧事件の高裁・最高裁判決の批判根拠として結実しているのです。豊かな憲法理論が、憲法訴訟に新たな地平を拓く一つの証左といえるのではないでしょうか。

尚、本書全体の構成は、以下のとおりです。
まえがき
T 第一章 自由な世論形成と民主主義―公共圏における理性
第二章 市民的自由は憲法学の基礎概念か
第三章 市民社会における法の役割(の限界)
U 第四章 結社の自由、または「ウォーレン・コート」の終焉と誕生
第五章 アメリカの表現の自由判例における萎縮効果論―ウォーレン・コートからバーガー・コートへ
第六章 ドイツの表現の自由判例における萎縮効果論
V 第七章 立川反戦ビラ訴訟高裁・最高裁判決への批判
あとがき

【書籍情報】毛利透著 岩波書店 2008年12月 (定価 本体5,600円+税)

※「表現の自由」に関する書籍・論文や毛利透教授の書籍・論文は当サイトの憲法文献データベースでも検索できますのでご案内します。

 

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