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書籍『福沢諭吉と中江兆民―<近代化>と<民主化>の思想』

K・T

“福沢は成功したが、兆民は失敗した”――という評価があります。確かに二人の晩年を比べれば、福沢は「顧みて世の中を見れば堪え難いことも多いようだが、(中略)日清戦争など官民一致の勝利、愉快とも難有いとも言いようがない」(『福翁自伝』より)と語り、兆民は「余明治の社会に於て常に甚だ不満なり、(後略)」(『一年有半』より)と述べています。これを表面的にみれば、福沢=成功、兆民=失敗、の評価が妥当しているようにも思われます。
が、しかし本書著者吉田傑俊名誉教授(法政大学)は、「ある思想の優劣を判断するときには、時代と社会への短期的な適応力においてではなく、中・長期的な射程においてその質と効力が判定されなければならない」(p.229)というスタンスから、明治期における対照的な二人の思想家の軌跡を辿られます。本書は、単なる明治初期啓蒙思想の紹介にとどまらず、<近代化>と<民主化>の対立と拮抗をめぐる現代の実践的課題を射程に捉え、日本国憲法とのかかわりにおいても興味深い示唆が含まれています。

本書の構成は以下のとおりです。
はしがき
第一章 福沢諭吉と中江兆民―<近代化>と<民主化>の思想として
第二章 福沢諭吉の<近代化>思想
第三章 中江兆民の<民主化>思想
第四章 福沢・兆民の思想と現代

第一章で福沢と兆民、それぞれの生涯と思想の概略が、時代背景を踏まえて描かれた後、第二章では福沢思想の史的展開が検討されますが、ここで特徴的なのは、丸山眞男氏の“福沢”観を基軸にしながらその批判的検証を行っていること。丸山氏は、従来の福沢論が“当初啓蒙思想家として出発した福沢は、後年脱亜論にみられる国権論者へと変貌した”と捉えるのに対し、生涯一貫したプラグマティズム的思惟方法によって近代市民的自由を標榜した啓蒙思想家として福沢を高く評価するものです。これに対し、吉田教授は、福沢の論稿を初期・中期・後期と丹念に検証し、<近代化>路線推進の立場を一貫させた福沢が“近代主義の陥穽”―近代社会の孕む矛盾を捨象することで、“民権”は“国権”に従属させられ、対外的には侵略主義的にならざるを得ない―に嵌り込んでいると指摘されています。

続く第三章では、福沢と対照的な道を歩んだ兆民の、“ルソーに始まりルソーを超えた”<民主化>思想の発展が描かれます。兆民が、英仏の民権は「回(恢)復の民権」であるのに対し、日本の場合は「恩賜の民権」であり、これを民衆が育成して「回(恢)復の民権」に近づけることが肝要であると説いているのは、浦部法穂教授著『世界史の中の憲法』の中で「(遅れて近代化を達成した日本やドイツのようなところでは)『たたかい』の主役が不在だった、(中略)そういうところでは、逆に『上からの近代化』というかたちで、下からの動きに対する反動として上から憲法がつくられる」(p.28)と述べられていることと重なり合あうように思われます。また、先に当欄でご紹介した書籍『憲法9条の思想水脈』においても触れられていた兆民の軍事撤廃論が、最晩年には“防衛戦争も否定する非武装論”にまで徹底されているとの指摘は、現在の日本国憲法の考え方に直接つながるものとして印象深い。

そして第四章で、福沢の<近代化>思想と兆民の<民主化>思想を、文明論・人民論・アジア論・将来社会論像の4つの観点から総括的に比較検討され、“福沢は成功し、兆民は失敗した”との評価が、“時代の本質を摘出し、時代を超えて継承発展される内実をもった思想か否か”という判断基準に照らせば妥当しない、ということが論証されています。
吉田教授の「兆民は時代や時流に<失敗>することによって思想的には<成功>し続けている。兆民の思想が実現するまで、おそらくそれは輝き続けるだろうから。」(p.254)との最後の文章が心に残ります。

【書籍情報】吉田傑俊著 大月書店 2009年1月 (定価 本体2,800円+税)

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