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書籍『格差社会と教育改革』

K・T

“一億総中流”と言い慣わされていた時代は、さほど大昔ではないはずなのに、いまや日本が “格差社会”であることを疑う人はほとんどいないでしょう。このような状況にある今、教育の現場で何が起きつつあるのか。
昨年12月当欄でご紹介した書籍『普通教育とは何か』の著者武田晃二教授に、当サイト「今週の一言」にご登場いただきました。「普通教育」の重要性、今日的意義から鑑みて、実際の教育現場はどのくらい隔たりがあるのか、それを確認する上でも参考になるブックレットを今回ご紹介します。

ブックレットの内容は、
第一部 苅谷剛彦教授(東京大学大学院教育学研究科)講演録「格差社会と教育改革」07年6月25日 
第二部 対談「戦後教育の達成をどうみるか」 苅谷剛彦教授・山口二郎教授(北海道大学大学院法学研究科) 同日
第三部 対談「教育政策のゆくえ」 苅谷剛彦教授・山口二郎教授 08年3月1日
と構成されています。

第一部では、教育現場で今何が起こりつつあるかということ、そしてその問題性が明らかにされています。苅谷教授は、“格差”を“不平等”と認識する視点から、教育再生会議の打ち出す政策が、現場の問題に対する正確な“診断”を行なわないままなされた、根拠に基づかない“処方”であると指摘されます。「再生会議のめざす教育というのは結局、(中略)資源配分についての具体的な議論をしないまま、学校現場を動かす仕組みとしては競争と選択と評価に期待をして、最終的には学校選択によって集まった子どもの数に応じて予算をつける、こういう効率化とメリハリをめざした政策」(p.12)「その結果、不平等が固定化したり不平等を『再生産』するということが、まさに教育を通じて行なわれるようになる。」(p.17)
第二部は、講演と同日に行なわれた山口教授と苅谷教授の対談です。講演内容を踏まえ、教育再生会議の提言する教育政策が壊そうとしている“戦後レジーム”、戦後教育のありようを、「戦後の新しい教育がスタートした一九四五年という時点で、日本がどういう社会で、いったいどれだけの資源があったのか(中略)お金もない、人もいない焼け野原のところから突然、中学校まで義務教育にしてしまうのです。ヨーロッパでさえ中学校までの普通教育を義務教育にしていない時代ですから、これは非常に先進的な制度でした。しかも戦時体制に対する批判がありましたから、(中略)これからは教育を通じて民主的な人間を育て上げなければいけないという理念が強くあった。これが、改正前の教育基本法と憲法が両輪として働いていた、まさに戦後レジームだったのです。」(p.36 苅谷教授)と評価されています。ここで指摘されていることは、まさに普通教育の理念を体現しようとした義務教育のあり方ともいえましょう。
第三部は、第二部の対談から約8ヶ月後、自民党が大敗を喫した07年夏の参院選を経て、露骨な明文改憲・復古主義的な動きに一応のストップがかかったものの「新自由主義と市民主義的なものの志向が渾然としている」(p.50 山口教授)という状況認識の下に行われた対談です。この中で、新自由主義の徹底は“近代的主体”の形成プロセスを度外視して、アクセス格差を含め、格差増大に向かうこと、その一方今の情勢下では、政治を可視化し、議論による政策変更を促す可塑性はあるという展望について言及されています。

「評価」「選択」「競争」が新自由主義的文脈で語られるとき、対抗軸となるのは、学習と議論の蓄積によって形成される、真の意味で自立した“主体”の力ではないでしょうか。当研究所は映画「戦争をしない国 日本」の製作委員会と共に講演の夕べ「『戦争をしない国』日本の“いま”」を開催します。住民の目線で憲法理念を学ぶ機会として、併せてご案内します。

【書籍情報】苅谷剛彦・山口二郎著 2008年6月発行 岩波ブックレットNo.726

*憲法における「教育を受ける権利」や「教育の自由」に関わる書籍・論文は当サイトに収載している「憲法文献データベース」で検索できますので、ご案内します。

 

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