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論文「平和的生存権と『人間の安全保障』」/論文「東北アジア非核地帯条約締結の課題」(書籍『平和憲法の確保と新生』所収)

K・T

前回に引き続き、書籍『平和憲法の確保と新生』所収論文をご紹介します。(本書全体の構成はこちらをご参照ください。)

最初に当研究所主席客員研究員浦部法穂教授(名古屋大学、当サイトでの最近の発言1、動画メッセージはこちら)の論文「平和的生存権と『人間の安全保障』」から。
この論文で浦部教授は、まず国際社会において「人間の安全保障」の考え方が成立した経緯を確認し、国連「人間の安全保障委員会」が提出した報告書(以下、報告書)の内容について「それは単に困難に直面する人々の『保護』にとどまらず、『人々が自らのために、また自分以外の人間のために行動する能力』の強化を意味するものでなければならない、としている」ことに注目され、「『人間の安全保障』とは、単に恵まれない人を援助・保護するというような、恩恵的・慈善的概念ではない」(p.26〜27)ことを強調されています。
浦部教授は、報告書に示された「人間の安全保障」論が@「軍備による安全保障」という考え方を基本的に否定しているAネオ・リベラル「グローバル化」への一定の批判的視点をもっている、の二点でその意義を評価しつつ、同時に、“人間の安全保障”と“国家の安全保障”とが相互補完関係にあるかのような報告書の記述が、人間の安全保障を国家の安全保障に意図的にすり替える余地を生み出しているという危険性をも指摘されています。ことに「人間の安全保障」を“日本外交の柱”とうたいながら、一方で「国益」の観点からグローバル資本を守るためのアメリカの単独軍事覇権体制を全面的に支持する日本政府の姿勢を厳しく批判。「人間の安全保障」論は本来、「今日のネオ・リベラル『グローバル化』とそれを力ずくで支えようとするアメリカ単独覇権の『世界秩序』に対する『異議申し立て』の契機を含むものである。」(p.32)ことを確認すべきだとされています。そして、本来的な意味での「人間の安全保障論」を全世界の人々が共有するうえで、「日本国憲法の平和的生存権の哲学とそれを基礎とする平和主義こそが重要な拠り所となる」(p.33)と結ばれています。
“人間の安全保障”論は、平和的生存権を要とするものであり、かつまた“国家のために人があるのではない”という認識にたつことで、昨年12月の講演会「世界史の中での日本国憲法の意義」においても浦部教授が強調されていた“近代国民国家の枠組みを乗り越える”可能性を示唆するものであることを、改めて本論文から感じました。

次に、同じく当研究所客員研究員山内敏弘教授(龍谷大学、近著『立憲平和主義と有事法の展開』、当サイトでの最近の発言1、)、動画メッセージはこちら)の論文「東北アジア非核地帯条約締結の課題」をご紹介します。
現在の国際情勢を、「米ロなどの核超大国の核保有は戦争に対する抑止力をもつが、その他の非核保有国の核保有は平和に対する脅威となるという(核抑止の)議論は、どう考えても筋が通らない」(p.158)根本的矛盾を孕んだNPT体制が岐路に立たされる一方、世界各地で非核地帯条約の締結がすすみつつあるものと捉え、東北アジア非核地帯条約案の骨子として、山内教授は次のような提言を打ち出されます。@朝鮮半島と日本を適用地域とすること。A核兵器の、実験を含めた研究、開発、製造、保有一切の禁止。B外国による核兵器の持ち込み、寄港、通貨、配備、使用を一切禁止。CNGO代表の参加も視野に入れた「核兵器禁止機構」の設立。D核エネルギーの平和的利用は禁止しない。E議定書を作成し核保有国(米英仏ロ中国など)による締約国への核使用・配備を行なわないことを約束させる。
これまでに締結された各地の非核地帯条約の中には、外国の核搭載航空機・艦船の航行・寄港を締約国の自由な判断に委ねていたり、条約履行監視委員会にNGO代表が参加できない仕組みになっていたりするものもあることから、とりわけB、Cに係る提言は、条約の実質的な有効性を高める上で重要なポイントと山内教授はみておられるようです。
しかし、東北アジアにおいて非核地帯条約を締結するにあたり二つの課題があることを、山内教授は指摘されています。一つには、日本・韓国がアメリカの「核の傘」から離脱する必要があること。もう一つには、日朝間の国交正常化のために、過去の植民地支配に対する補償問題と拉致問題とを解決する必要があること。この二つの課題は、東北アジアの“非核化”を目指す際に避けては通れない問題でしょう。
最後に山内教授は、憲法九条は東北アジア非核地帯条約締結の有益な指針であり、また東北アジア非核地帯条約締結が日本国憲法の平和主義を内外に生かすことにつながると述べておられます。ここに、“信頼醸成”機能という憲法九条の大きな意義の一つをみてとることができるのではないでしょうか。

第1章で本書編者でもある上田勝美教授は、本書自体について「恒久世界平和実現に向けての最新の『平和の設計書』の一端を担うもの」(p.5)と述べられ、また終章では、同じく編者の深瀬忠一教授は「平和憲法のグランド・デザイン」(p.366)と述べられています。平和憲法の本質、そして憲法学の最新の成果について、学ぶべきことを満載した一書として、本書をご案内します。

【論文情報】論文執筆者:浦部法穂・山内敏弘 / 深瀬忠一・上田勝美・稲 正樹・水島朝穂編著『平和憲法の確保と新生』所収 北海道大学出版会 2008年12月 (定価 本体価格3,600円+税)

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