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書籍『福祉と正義』

K・T

アマルティア・セン。彼の人の名前は、私たちに何を、どんなことを想起させるでしょうか。“人間の安全保障”という概念の普及に尽力し、国連「人間の安全保障委員会」において緒方貞子前国連難民高等弁務官とともに、共同議長を務めた人。ノーベル経済学賞受賞者。本書冒頭で共著者の後藤玲子教授(立命館大学大学院)は、セン博士(現ハーバード大学哲学・経済学教授)を次のように紹介しています。
「センは、一九三三年インドのベンガル地方のシャンティニケタンで生まれた。もともと数学と物理学を専攻していたセンが経済学に転じたきっかけは、九歳の時、およそ三〇〇万人の犠牲者を出したといわれるベンガル大飢饉を目撃した体験にあるという。」以来、不遇な境遇の人々に心寄せ、“不遇な境遇”をもたらすメカニズムの究明と新たな社会経済システムの構築をめざしてきた彼の、その研究業績の一端に触れることができるのが本書です。

序章 アマルティア・セン―近代経済学の革命家(後藤玲子)
T 個人の権利と公共性
第一章 民主主義と社会的正義―公共的理性の到達地点 アマルティア・セン(後藤玲子訳)
第二章 〈自由への権利〉再考 後藤玲子
U 正義の条件―義務と相互性
第三章 帰結的評価と実践理性 アマルティア・セン(小林勇人訳)
第四章 正義と公共的相互性―公的扶助の根拠 後藤玲子
V 正義の位相
第五章 開かれた不偏性と閉ざされた不偏性 アマルティア・セン(岡敬之助訳)
第六章 ローカル正義・グローバル正義・世代間正義 後藤玲子(※一部初出は書籍『立憲主義の政治経済学』所収論文)
終章 福祉と正義 後藤玲子
あとがき

と構成された本書では、後藤教授による序章・終章を除き、T〜V部はそれぞれに冠されたテーマに基づくセン博士の論文・後藤教授の論文の組合せ、となっています。各々独立した論文ながら、まずセン博士の理論が提示された論文、続いてその日本における適用・適応を試みる応答としての後藤教授の論文、とも読みとれるように思われます。
経済学の領域における、セン博士の“本人が価値をおくような生を生きられる―そして価値をおく理由があるような生を生きられる”ことが人間の実質的自由であると述べている点や、“帰結主義的アプローチ”によって「(その人の立場がどうあれ結果に対して)責任ある選択」を要請する規律についての言及。これらを踏まえて、「公共的相互性」という概念を結節点に、後藤教授は“働いて提供することができるなら、そうしなさい。困窮しているなら、受給しなさい”という原則の現実性を検証します。ここに、25条において生存権保障を明記する日本国憲法との照応があります。「日本国憲法の記載は、個々人が、論理的にも現実的にも相互的である社会的文脈の中に、自分自身を見出すこと、その中で、自分が働くことの意味を位置づけることを可能とする。そのもとで構想される複層的公的扶助システムは、市場的な視野を越えて、社会の中で正しく評価されるべき多様な価値と存在に気づかせてくれる。」(p.160)

この年末年始、セン博士と後藤教授が本書で描いた公的扶助構想モデルの、現実の実践例を、私たちは目にしました。年越し派遣村(村長を務めた湯浅誠さんが事務局長であるNPO法人もやいのスタッフ冨樫匡孝さんには当サイト「今週の一言」」で語っていただきました。)の活動です。まさに“働いて提供することができるなら、そうしなさい。困窮しているなら、受給しなさい”の体現です。広くマスコミにもとりあげられたこのとりくみ。何かが変わりつつあることを実感させる、年明けでした。

【書籍情報】アマルティア・セン/後藤玲子 著 東京大学出版会 2008年12月 (定価 本体価格2,800円+税)

*「生存権」や「人間の安全保障」に関わる書籍・論文は当サイトに搭載している「憲法文献データベース」で検索することもできますので、ご案内します。

 

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