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書籍『福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー』・書籍『貧困報道―新自由主義の実像をあばく』(メディア総研ブックレットNo.12)

K・T

今回最初にご紹介する書籍は、著者宮本太郎教授(北海道大学大学院)の『福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー』。本書で宮本教授は、現在日本の福祉と雇用が陥っている状況を、国民に広がる“行政不信に満ちた福祉志向”・政治の“膠着状態”と指摘し、そこからの脱却を探求されています。
本書にいう“福祉政治”とは「生活保障をめぐる政治」のこと。社会保障並びに雇用保障をめぐる諸政策が“生活保障”の二つの柱となりますが、この制度体系をめぐっては、従来、社会保障・雇用保障、別個に論じられることが多かったところ、本書では、両者の連携をとらえることに力点がおかれています。

本書は以下のとおり構成されています。
はじめに
序章 日本の福祉政治―なぜ問題か、どう論じるか
第1章 福祉レジームと雇用レジーム
第2章 福祉政治をどうとらえるか
第3章 一九六〇・七〇年代の福祉政治―雇用レジームと福祉レジームの形成と連携
第4章 一九八〇年代の福祉政治―福祉レジームの削減と雇用レジームの擁護
第5章 一九九〇年代後半以降の福祉政治―雇用レジームの解体と福祉レジームの再編
終章 ライフ・ポリティクスの可能性―分断の政治を超えて
あとがき

本書の特徴は、二つの分析フレームにあります。一つは、欧米で展開された福祉レジーム論・生産レジーム論を参照しながら、日本独特の福祉政治のあり方、すなわち生活保障の中で雇用保障に著しく傾いた日本の制度体系と、その帰結としての日本の行き詰まり状況―グローバリゼーションを背景に、日本において雇用保障が解体に瀕したとき、貧弱な社会保障は国民生活を支えられなくなっている状態―を浮かび上がらせています。
いま一つは、これら制度の展開を把握するのに、福祉政治を「利益政治」と「言説政治」という二つの次元に区別して分析する手法をとっていることです。「利益政治」とは、利益の組織化と動員によって政策が方向付けられる過程であり、「言説政治」とは、人々の判断を左右する言説や操作を通じて政策が方向付けられる過程と説明されています。「利益政治」と「言説政治」、もちろん現実の政治過程はこの二つの次元が絡み合ったものです。が、二つの次元を区分して検証することで、日本の福祉政治の展開に対する国民意識の流れ―著者宮本教授のいう“行政不信に満ちた福祉志向”―が何故生まれ来たったか、ときどきの政権がどのように国民分断の状況を作り出してきたか、を能く説明するものとなっています。そこに分析ツールとしての有効性が示されているように本稿筆者は感じました。

さて、政治過程における“言説”の側面に光を当てるとき、メディアの媒介を抜きにして語ることはできません。次にご紹介する書籍は『貧困報道―新自由主義の実像をあばく』。このブックレットは2008年7月5日・6日に行われた第3回メディア総研ジャーナリズム講座「日本の貧困」をもとにまとめられたもの。
本書は、
 T 貧困報道の現場から
 U 背後に横たわる農村の崩壊
 V 新自由主義と現代日本の貧困 一橋大学 渡辺治
と構成されています。

Tは、NHKスペシャル番組『ワーキングプア』、日本テレビ『ネットカフェ難民』、朝日新聞特別報道『偽装請負』、各報道のいわば仕掛人となったジャーナリストの報告とパネルディスカッション。Uは、民族研究家結城登美雄さんの農村問題についての報告とTのジャーナリストを交えてのパネルディスカッション。Vは、これらメディアのとりあげた貧困・格差が新自由主義・「構造改革」の所産であることを検証し、この間メディアが果たした役割を評価しつつ今後の課題を提起する渡辺教授の講演、という中味です。
渡辺教授の講演は、06年から貧困・格差問題の報道が大々的かつ系統的に始まったことに着目し、それを小泉構造改革の一つの帰結として捉え、貧困格差が直接生命の危険につながるような劇的な形で顕在化したこと、地方の疲弊と財政破綻という形で顕在化したことを、日本における特殊性として指摘されています。最初にご紹介した書籍『福祉政治』とはまた別の角度から、日本の“膠着状態”に迫る内容です。

人々の生活の安定を図ることが政治の目的であるならば、一口に言って憲法はその設計図です。日本国憲法が定めた“政治のかたち”は、ひとが「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障した福祉国家であったはず。そこからどれだけ乖離しているかを見定める必要があるでしょう。今回の二つの書籍は、そんなことをも考えさせてくれます。当研究所の開講する08秋!憲法を本質的に考えるリレーレクチャー第3回 (PDF)は、雇用・福祉がテーマです。あわせてご案内します。

【書籍情報】宮本太郎著『福祉政治』 有斐閣 2008年9月(定価 本体価格1,500円+税) メディア総合研究所編『貧困報道』 花伝社 2008年10月(定価 本体価格800円+税)

 

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