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書籍『覇権なき世界を求めて―アジア、憲法、「慰安婦」』

K・T

本書著者石川康宏教授(神戸女学院大学、関連情報)のご専門は、経済学です。経済学という光をあてたとき、日本国憲法と憲法をめぐる動向に、どのような図柄が見えてくるでしょうか。
本書は、石川教授が著された2004年以降の論文を1冊にまとめたものです。初出時には個々独立していた論文が、加筆を得て一つの書物にまとめられたことで、全体が書き下ろされたかのような印象で読むことができます。

本書の構成は以下のとおりです。
はじめに
第1章 世界構造の転換と帝国主義
第2章 世界の構造変化と日米関係
第3章 進む「東アジアの共同」と米日の対応
第4章 アジアの中の憲法問題
第5章「慰安婦」問題に見る世界の構造変化

第1章では、帝国主義概念とのかかわりで、世界構造の転換が考察されています。植民地体制崩壊後、世界構造はどのような変化を遂げたか、国としての独立を果たしたかつての植民地が数の上で多数を占めるに至った国連と、そしてかつての植民地領有国のその後の姿とが描かれます。本章では、紆余曲折を経て植民地主義からの脱却をめざしたフランスの、イラク戦争に対する態度の分析が興味深い。
第2章、第3章は、日米関係の変容過程が、「東アジア共同体」構想との関係で検証されます。アメリカが政策変更を余儀なくされた状況、それに伴っての対日圧力の変化、日本政府と日本財界との思惑のズレ、これらが、“世界の構造変化”に起因していることが解き明かされます。
この認識をバックボーンとすることで、第4章で論じられる04年以降の改憲動向の意味、第5章の「慰安婦」問題を中心的素材とした日米政府の“軋み”、これらの輪郭がくっきりと浮かび上がってきます。

本書では“世界の構造変化”の表れとして、具体的には、中国など東アジア諸国の経済成長と政治的発言力の強化という側面がとりあげられています。97年のアジア通貨危機をひとつの契機に、ASEAN諸国のAPEC離れ、IMF体制離れが一気に進みます。例えば「マレーシアは、アメリカ・IMF流のこの危機脱出策を拒否し、市場の自由化ではなく、逆にヘッジファンドなどの投機の自由をしばる短期資本の取引規制を行うなどして、他の国に先んじて経済再建に成功します。」(p.97)
こういった動向が、アメリカ政府に、これら諸国への敵対的政策から、アメリカの排除を許さずアメリカの国益を確保する政策への転換を促します。日本の財界も、日米同盟強化の方針は堅持しつつ、一方でアジア通貨基金構想にみられるような、必ずしも“アメリカ一辺倒”ではない外交を求めるようになります。そこに起因して、首相の靖国参拝への批判や、アメリカ下院での「慰安婦」決議が生じ、“新憲法制定”の動向も“古典的靖国派”的色彩の匙加減が二転三転する。

このようにみてくると、経済的諸関係からみた世界の構造変化の進み具合は、普段見聞きするニュースの範囲をはるかに凌駕していること、慰安婦問題に係る「河野談話」を後退させるような歴史認識が、いかに時代遅れになっているかということに気づかされます。時代遅れの認識をとりはらえば、時代に先駆ける価値を有する日本国憲法の意義も再確認できるでしょう。

今回は経済学の視点から憲法に光をあてる書籍をご紹介しました。憲法をさまざまな角度から検証する「08秋!憲法を本質的に考えるリレーレクチャー」もあわせてご案内します。

【書籍情報】石川康宏著 新日本出版社 2008年7月 (定価 本体1,900円+税)

 

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