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書籍『半世紀前からの贈物』『戦争が遺したもの』

H.T.記

 護憲を熱烈に説く弁護士であり、ロマンチストでありながら舌鋒鋭い文筆家でもある内田雅敏さんの近著です。このHPでは、「今週の一言(立川反戦ビラ事件無罪判決と表現の自由)」でも登場していただきました。

 『半世紀前からの贈物』は内田さんが愛知県の三河湾に面する蒲郡町の小学校の2年生のとき(1953年)の学年文集「いつつぼし」に掲載された旧友たちの作文を出発点にしています。1945年、終戦の年に生まれた内田さんにとって、最近同級生から送られてきた文集は、まさに半世紀前の幼少期を再現してくれる感動的な贈物でした。「『貧しい』時代ではあったが、貧しさは皆同じであり、今日とは違って時間もゆっくり流れ、子供達には『豊かな』時代ではなかったかとも思う。」と書かれています。青い海と緑の山に囲まれた田舎町。家族や地域の大人たちの温かい目線。たくさんの作文には、伸びやかに成長する子供達のみずみずしい感性が息づいています。

 今は、人間がアトム化され商品化されて、あわただしい消費生活に追われる時代です。そえゆえ、人間にとって「豊かさ」とは何かが問われています。この本は、子どもも大人も、主体として個性をさらけ出しぶつかり合いながらも大地にしっかりと根を下ろし共生する豊かさを強く示唆しているように思います。

 2年生たちの作文に対する内田さんのコメントは、一人ひとりのその後の「半世紀」の物語りも含め大変味わい深いです。この本は内田さんの自伝でもあります。家業を手伝いつつ多感な少年時代を過ごした内田さんは、「豊かさ」の背骨にあるものとして、「愛」を見ているように思います。「愛」への感性、ないし渇望には激しさを感じます。傷痍軍人や戦争で精神を害した中年のおじさんなど弱者を見つめる内田少年の優しい眼差し。愛は「差別」に対する怒りともなります。
 「差別する」という点では、教師に対する厳しい眼を感じます。教育業務は国民国家の最も重要な公権力の行使ともいえますから、それを担う身近な存在の教師に、戦後民主主義の不徹底と偽善を感じとるのは自然なことでしょう。

 内田さんはこの書籍について、ある種の「平和憲法論」だと言われます。なぜでしょうか。

 自民党の新憲法草案が、憲法から「愛」を削除したと指摘したのは内田さんです。すなわち、草案は、憲法前文の「平和を『愛する』諸国民」の文言を削除しました。そして、平和的生存権も削除しました。内田さんは、平和的生存権は地球上のすべての人々に対する「愛」によって裏打ちされたものであり、平和的生存権を実現するために9条や「個人の尊重」が規定されていると話されます。
 通常、憲法が究極の価値としているのは「個人の尊重」だと言われています。これは法的概念です。憲法はここから出発します。しかし、内田さんが言われるように、「個人の尊重」とか「平和的生存権」を謳う憲法を理解するためには、その背後にありそれらを支える、人間に対する「愛」をしっかりと確認することが、極めて重要、否、不可欠であるように思います。

 憲法の神髄は国家権力の制限による人権保障です。強力な国家権力を制限して人権を保障させる主体である国民は、強固な自律規範を持っていることが必要です。この自律規範の中核となるものこそ、「愛」であり、「愛」は、私たちの生活を律する道徳規範、社会規範の中心に置かれるべきものでしょう。「愛」とは、私たち自身の自立した生き方と憲法をつなげるキーワードだと言えそうです。

 この書籍の「補論」とした編まれた『戦争が遺したもの』は、小学校2年生のときの担任の先生のご子息である鈴木茂臣さんとの編著です。鉄道の趣味の関係でヨーロッパに詳しい鈴木さんは書いておられます。「ヨーロッパの街を歩くとたくさんの国旗が目に入る。誰でも自分の国が大好きだから国旗も好きなのさ」。これは、「愛郷心や愛国心などはそれが愛するに足りる故郷や国ならば自然に芽生えてくるもの」と言う内田さんの「愛」の考え方に通じています。
 書籍には内田さんの、今の時代に対する警句も多く綴られています。戦争遂行の責任をとらなかった天皇や司法官僚等に対する批判には激しいものがあります。それは、深い人間愛と表裏をなしています。

 文章のはしばしに見られる内田さんの該博な知識もそれ自体読みごたえがあります。

 土井たか子さんの寄稿文に現れている俳優・吉永小百合さん(内田さんと同じ1945年生まれ)の言葉を紹介します。「終戦の年に生まれたことを感謝している。いつまでも戦後であって欲しい」。戦争が遺したもの=日本国憲法の理念を真に実現するのはこれからだ、ということでしょう。

【書籍情報】『半世紀前からの贈物』内田雅敏著 2007年10月初版 08年4月増補版。『戦争が遺したもの』内田雅敏・鈴木茂臣編著 2008年5月 いずれも、れんが書房新社・(定価 本体価格700円+税)。

 

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