法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連書籍・論文>

 

書籍『公人とマス・メディア―憲法的名誉毀損法を考える』

K・T

本書著者山田隆司さんは、読売新聞記者として活躍されるうちに表現の自由をめぐる法理や判例に関心を抱かれるようになり、大阪大学大学院法学研究科博士課程に入学、記者活動を続けながら本書の基となる博士論文を執筆されました。
著者の問題意識は、日本における名誉毀損訴訟の判例法理を、憲法的視座から捉え直したときに、果たして報道の自由・表現の自由を損なうものとなっていないだろうか、というところにあります。

本書の構成は以下のとおりです。
はしがき
序章
第1章  相当性理論から現実的悪意の法理へ
第2章  アメリカ連邦最高裁における現実的悪意の法理の採用と展開
第3章  アメリカにおける現実的悪意の法理の再検討
第4章  日本における現実的悪意の法理
第5章  日本における公人の名誉保護
補論  公人の名誉損害と損害賠償高額化
結章
おわりに

日本の名誉毀損訴訟では、戦前における“公人批判・権力批判をいかに抑圧するか”という発想が根強く、そこからの脱却が課題でした。戦後、日本国憲法の下で刑法上の名誉に対する罪第230条に、その例外として第230条の2を付加することで表現の自由を顧慮し、真実性の証明を免責要件とする論理が、不法行為としての名誉毀損に損害賠償を求める民事訴訟における判断にも使われるようになったという経緯があります(註1)。
その“真実性の証明”について、判例は“(報道等の内容が)完全に真実であると証明されなくても、事実を真実と信じるに足る相当の理由がある場合は、名誉毀損について免責される”という「相当性理論」の立場をとっているといわれます。この“真実と信じるに足る相当の理由”があったか否かは、名誉毀損で訴えられた側、即ち被告側に挙証責任が課せられます。著者は、この判例法理に疑問を投げかけ、かつ、昨今の名誉毀損に対する損害賠償額の高額化傾向に対し問題提起を行っているのです。
著者はアメリカにおける名誉毀損訴訟の動向に着目し、そこで適用される「現実的悪意の法理」を日本の判例法理に導入する可能性を検討しています。「現実的悪意の法理」とは、表現者(報道者)が事案の真実性について“現実的な悪意”をもってその根拠付けを怠ったものであることを、名誉毀損で訴える原告側が立証したときに、報道者側に賠償責任が生じ、それ以外の場合には表現の自由が保護される、というもの。種々の問題を孕みながらも、表現の自由を手厚く保護する枠組みです。

著者は「強い公共性」を有する「公人」に対する表現・報道の自由を擁護することで民主的議論の活性化を促す重要性を詳細に論述しています。同時に、利益追求のために真実性を犠牲にし他者のプライバシーに踏み込む悪質報道を抑制することにも目配りされていることが伺われます。ここに求められるのは、赤子(表現の自由)を捨てずに、盥の水(悪質な人格権侵害)を流し去る作業ともいえるでしょう。

本書を読むと、表現の自由と人格権との調整に留まらず、さまざまな権利調整の視座として、憲法的価値に立ち返ることの重要性に気づかされます。私たちは日々の営みの卑近なところで、絶えず権利と権利との調整が必要な場面に出くわしているはずです。そのときに、憲法的視座からそこで問われている人権の価値を捉え直すこと、それが憲法を「活かす」ことの具体的意味であり、それは法律家であると否とを問わず憲法の下で生きる私たちの責任とも言えるかもしれません。

当研究所秋のリレーレクチャーは、今私たちの社会が直面している諸問題を憲法の基本的考え方から捉え直し、憲法の本質に迫る内容です。併せてご案内します。

【書籍情報】山田隆司著 信山社 2008年5月 (定価 本体価格3,000円+税)

(註1)民法上明文規定がないところへ、刑法上の規定を持ち込むのは、「単なる法律的な解釈によってはできものではなく、民法より上位の規範たる最高法規としての憲法に立ち戻ってはじめて、こうした解釈ができる」という、奥平康弘教授の『憲法裁判の可能性』(岩波書店 95年)が引用されています。

 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]