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書籍『戦後平和主義を問い直す―戦犯裁判、憲法九条、東アジア関係をめぐって』

K・T

本書は、著者林博史教授(関東学院大学)が「子どもと教科書を考える府中の会」の連続学習会での3回にわたる(2006年11月〜07年3月)講演「再検証 戦後史」を基に加筆修正してまとめられたもの。
はじめに
第1章  東京裁判・BC級裁判の再検討
第2章  憲法九条をアジアのなかでとらえ直す
第3章  東アジア「過去の克服」の今日的意義
と構成されています。
本書について著者は、「戦後日本の貴重な財産である平和主義を、批判的に検証しながら、さらに創造的に新たな生命力を吹き込んでいきたい」(下線部、本稿筆者)という観点でまとめた、述べられています。
では、再検証すべき憲法九条とそれを支えてきた戦後日本の平和主義とは何か、どういうところに問題があったのか。

その究明に先立って、まず戦犯裁判についての認識を確認しなければなりません。東京裁判のみが唯一の日本に対する戦犯裁判であるかのような誤解、東京裁判がアメリカ単独の筋書き通りに行われた茶番であるといった誤解についても、著者は資料を駆使して解明されています。しかし、最も広範でかつ根深い誤解は、BC級戦争犯罪(人)について、“A級戦犯より罪の程度や責任が軽い”、というところにあるのではないでしょうか。
これは、A、B、Cという分け方が序列をイメージさせる点と、日本においては“A級戦犯の靖国合祀”や“A級戦犯(容疑者)が戦後も政治家になっていること”などが問題視されてきた点とに、関わっているのかもしれません。実際にはA級戦犯とは「侵略戦争の計画、準備、遂行などの平和に対する罪」、B級とは「通例の戦争犯罪」すなわち国際法で禁じられた敵兵、捕虜に対する残虐行為が対象となり、C級とは「人道に対する罪」すなわち自国民(被植民者を含む)に対する非人道的行為を対象にした犯罪を指すものです。つまり戦争犯罪類型の区別であって、程度や責任の軽重による区別ではないということ、本書著者は何よりこのことを強調しているように思われます。

何故このことが、“戦後平和主義を問い直す”のに重要なのか。著者は、“BC級戦犯とは上官の命令にやむなく従っただけの人々で、悪いのは軍中枢部と戦争そのものなのだ”というかなり一般的な認識が、個人の加害責任を曖昧にしてきてしまったと指摘します。戦争そのものを否定する考え方や、憲法九条を支持する平和意識を評価しつつ、同時に「責任なき平和主義」ということに注意を喚起しているのです。憲法九条についても、その普遍的な意義を充分踏まえながら、著者は天皇免責および沖縄の犠牲との引換えに成立した歴史的経緯を見逃していません。
最後に著者は、東アジアの「過去の克服」が、日本帝国主義、植民地主義のあり方全体の清算に関わるものとして、戦前戦中の対日協力者が冷戦構造の中で、戦後は対米協力者として生き延びてきたこと、国によっては彼らを中心とした独裁政権が民主化運動への弾圧を行ってきたことへの自己批判も含みながら進められてきたことに触れ、国家を超えた連帯への条件が生まれつつある展望を示しています。63年を経て尚、真相究明への努力を続けることの意義と必要性を感じさせます。

平和主義といい、人権といい、これまでの思い込みがさらなる探求によって覆される場合もあるということ、過去の蓄積の上に新しい認識の地平が切り拓かれるということに気づかされます。オンライン講座「憲法の考え方」「08秋 憲法を本質的に考えるリレーレクチャー」(第1回は9月13日山内敏弘教授の「憲法9条の歴史と未来」です)もさらに理解を深める一助としてご案内します。

【書籍情報】林博史著 かもがわ出版 2008年8月 (定価本体1,500円+税)

 

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