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書籍『食大乱の時代 ―“貧しさ”の連鎖の中の食―』

H.T.記

誰にでも生きる権利があり、生きるため、言い換えれば「生命の再生産」にとって一番大事なことは「食べる」ことです。それゆえ、「安全な物を必要な量だけ食べる」ことは人間にとって最も基本的な権利です(食べ物の質と量の保障)(憲法25条の「生存権」・前文の「欠乏からの自由」=平和的生存権の一つ)。本書はこれを明確に確認しています。

しかし今、食べることの根っ子のところで「食糧危機」が大きな問題になっています。すなわち、価格高騰、世界的な不足、ギョウザ事件や遺伝子組み換え食品などに見られる安全性(質)の問題などです。今回の食糧危機で世界では新たに1億人が飢餓に直面したとされます。日本も、食料自給率の低下(39%)、食事を2度に減らす家庭の増加、終戦直後以来久しく聞かなかった相次ぐ餓死、農家の深刻な経営難など、これまでになかった異常な危機に瀕しています。

本書は、これらのグローバルな危機の要因とそれへの対抗軸を、身近な具体例を豊富に紹介しつつトータルに探っています。農村に生き、そして日本と世界の「食」に関わる諸領域を広く調査し経験豊かな著者らならではの、分りやすい親切な書籍です。

農地と水は、地域で暮らす人たちの生存を支えるものでした。しかし今、人々が共同し寄り添って生きていく基盤が失われつつあることが、タイ、フィリピンなど多数の事例で指摘されています。途上国を中心に、農地が自給してきた食べ物以外の国際商品作りに転用され、多国籍化した大企業のコントロールのもとに集まってきています。生命、自然、地域の文化、すべてのものに値札がつけられている事実、世界を覆う「貧困の連鎖」が分析されています。シネマ「おいしいコーヒーの真実」もその一例を示しているのでしょう。

日本でも、農地は耕作者が所有し利用するという戦後の農地解放の理想を取り払い、外部資本の農業への算入を自由化する農地法改正の検討が政府部内で始まっていることが紹介されています。農業の主体を農民から資本へ移行させようという動きです。マスメディアでは書かれていませんが、国民に明らかにされ広範に議論されるべき重大な問題です。

そして、生産、加工、流通、消費のすべての場面で人々が疲弊し困窮化している状況と、その背景として多国籍企業がますますグローバルな支配力を高めている実例が生々しく紹介されています。グローバリゼーションとは何かの本質に、「食」の視点から迫っていると言えるでしょう。

このような事態を打開するものとして唱えられているのが、生存権ないし平和的生存権としての「食料主権」です。本書は、憲法で保障されているこの権利の内容を、「農」や「食」の観点から豊かに展開しています。その内容と、権利の実現に向けての日本と世界各地の実践例は是非本書でご覧ください。

ところで、「農薬入りギョウザは日本のブーメラン」「いつまでもあると思うな親とコメ」「WTOとFTAで国境措置が撤廃された場合の食料自給率は12%」「イオングループとセブン&アイ・ホールディングスによる食品産業の川下からの統合」「すき家とSHOP99」「遺伝子組み換えでつながるカーギルとモンサント」等々現代を解明するキーワード(フレーズ)はてんこ盛りです。

【書籍情報】大野和興・西沢江美子 七つ森書館 2008年7月 (定価 本体価格1,800円+税)

 

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