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書籍『戦争絶滅へ、人間復活へ―九三歳・ジャーナリストの発言』

K・T

前回当欄では、外国人ジャーナリスト・メディア人が憲法9条と日本の状況をどう見ているか、にかかわる書籍「海外から見た憲法9条」をご紹介しました。いわば空間的広がりのジャーナリスト目線で捉えた9条、に対し、今回ご紹介する書籍では、歴史的なジャーナリスト目線から、戦争と9条、日本の今と未来が語られます。

むのたけじさんは、1915年生まれ、93歳の現役ジャーナリスト・評論家。戦前は従軍記者として活動した経験の持ち主です。1997年、とある機関紙の取材がきっかけとなり、本書インタビューの聞き手である黒岩比佐子さんと出会います。爾来10年ほどの交流を通じ、黒岩さんは“こういう時代だからこそ、いま世代を超えて多くの人々にむの(さん)の言葉を伝える意味がある”と、2007年から08年にかけて行われたインタビューをもとに本書を世に送り出したのです。

本書第1章、第2章は、ジャーナリストの道を歩み始めたむのたけじさんの生い立ちと、従軍記者としての戦争体験が語られ、第3章で敗戦前後の新聞社と日本の世情が、そして第4章「憲法九条と日本人」以下、第5章、第6章で戦前・戦中・戦後を生き抜いてきたジャーナリスト・むのさんの視点で日本社会の今とこれからが語られています。

なかんずく、敗戦前後の新聞社の状況を、ごまかすことなく、ありのままに伝えるむのさんの言葉は、本書の圧巻です。「当時、新聞社のなかに、特高とかあるいは検閲官が来て『これは掲載できません』とか、『これはだめです』なんて言ったことは一度もありません。新聞社がみずから自己規制を始めてしまうんです。」(p.52)ポツダム宣言受諾が新聞社編集局に伝わったのは、1945年8月12日午後2時頃のこと。社内で、敗戦後の方針について論議が始まります。そこでむのさんは「われわれは間違ったことをしてきたんだから、全員が辞めるべきではないか」と提案します。しかし、むのさんに同調する者はなく、彼は一人、退社します。その決断は正しかったと彼は確信していたのですが、最近になってその気持ちが変わった、とインタビュアー黒岩さんに伝えています。きっかけは、2005年に琉球新報社が出した『沖縄戦新聞』。戦争中絶対にかけなかった内容を、現在の視点で記事にしたものでした。それを目にしたむのさんは「あっ、これだ」と思った、と語ります。東京大空襲の翌朝焼け跡を歩き回り「呼吸困難になるほどのショックを受け」ながら、しかしその記事を書くことができなかったむのさん。「戦後、すぐに『本当の戦争はこうでした』と読者に伝えて、お詫びをすべきだったんです。(中略)誰一人としてそういうことを考えられなかった。私はそのことが、本当に恥ずかしい。」(p.71)

こうした戦中戦後の痛恨の思いを背景に、憲法9条についてむのさんは独自の視点でこう語ります。「人類の輝かしい平和への道しるべであり、同時に日本自身の軍国主義への死刑判決でもある。その両面をもつのが憲法九条なのです。」と。日本の加害責任に頬被りをしたまま、9条の理想のみを語るのでは、9条はただの飾り物になってしまう、と厳しく指摘されているのです。

63回目の敗戦記念日を前に、戦前戦中、自縄自縛に陥ったジャーナリズム、マスコミの戦争責任への問いかけ、そして9条の意味を改めて考える上で、この夏にお薦めしたい1冊です。
当研究所では来月9月より「08秋!憲法を本質的に考えるリレーレクチャー」を開催。その第1回講義(9月13日)は山内敏弘教授の「憲法9条の歴史と未来」です。併せてご案内します。

【書籍情報】むのたけじ/(聞き手)黒岩比佐子 岩波新書 2008年7月刊行(定価 本体700円+税)

 

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