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憲法情報Now<憲法関連書籍・論文>

 

書籍『立憲平和主義と有事法の展開』

K・T

洞爺湖サミット開催前とその期間中、首都圏は物々しい雰囲気に包まれました。公共交通機関とその周辺を中心に闊歩する二人組の“警視庁”マーク、民間警備員の姿。いつのまにやらこれが日常風景に溶け込んで、さして違和感も感じない、そのことが怖ろしい。憲法で保障されているはずの市民的自由権、基本的人権が、“テロ対策”の名の下に、“安全”の代償として犠牲になるのは当然だという空気が醸成されること。

今回ご紹介する書籍は、この6月末に刊行された当研究所客員研究員・山内敏弘教授(龍谷大学法科大学院 動画メッセージはこちら ※)の最新刊です。 “はしがき”で山内教授は本書の目的を「立憲主義と平和主義を整合的なものと捉える従来の憲法学界の多数説の見解に立」ち「戦後日本における『有事法制』の展開が日本国憲法の平和主義と立憲主義をなし崩し的に侵害してきたことを明らかにする」(p.G)と述べておられます。本書には1970年代から2008年に至るまでの山内教授の論文が収められ、
第一部 有事法制の展開
(内、「第9章 有事七法」の初出は論文「有事七法関係論文」
第二部 軍事秘密法制と情報公開
第三部 ドイツにおける非常事態法制
と三部構成になっています。
第一部では、「戦後日本における『有事法制』の生成展開過程と現在の状況」の批判的検討がなされ、第二部では、「広い意味での『有事法制』の中に含めることができると思われる『軍事秘密』法制について情報公開との関連で検討」されています。そして、第三部においては「憲法に典型的な非常事態条項を採用したドイツの事例に即してこの問題を比較憲法的に検討」するという内容です(引用p.G~H)。

本書を繙くと、この三十数年間の山内教授の豊かな研究実績に触れることができます。と同時に、本書は第一部、第二部を通して国家機密保護をも含めた広義の「有事法制」が、平和への危機感を募らせる国民の反対運動がその都度起きながらも、三十数年間にわたって展開されてきた歴史、と読み解くことも可能でしょう。その果てに“洞爺湖サミットの現状”がある、とすらいい得るのかもしれません。例えば「日本国憲法が規定する平和主義が新ガイドライン関連法によってますます空洞化されてきている」(p.94第5章日米新ガイドラインと周辺事態法)「イラク特措法は、テロ対策特措法よりもさらに一歩米軍との軍事協力関係を深めることになった」(p.136第8章イラク特措法)などの記述に、その感は深まります。
けれども、より重要なことは、この「立憲主義のなし崩し的な侵害状況の展開過程」(p.F)においても、「政府防衛当局が端的に『戦時法制』ということができずに、『有事法制』という言い方をせざるを得なかったということは、他面において、憲法九条に対するそれなりの顧慮」があったらからであり「政府をして『戦時法制』といわせない抵抗力が国民の側に存在していたという見方もできる」(p.E)との指摘でしょう。

また本書第三部では、日本と異なり憲法(基本法)明文改正で再軍備と徴兵制とを規定したドイツの、非常事態法制の歴史的展開が検証されていますが、本稿筆者はとりわけ、航空安全法違憲判決(連邦憲法裁判所06年2月15日)に関する論述(第20章ドイツのテロ対策立法の動向と問題点)を興味深く読みました。先に当欄で書籍「人権・主権・平和―生命権からの憲法的省察」をご紹介したとおり、“生命権”に“人権の中の人権”“切り札としての人権”という位置づけを与えることで、“人間の安全保障”という安全保障観の理論的支柱になり得るという山内教授の考察が、奇しくもドイツ連邦憲法裁判所の判決文に息づいているかのように思われます。法学館憲法研究所双書「憲法9条新鮮感覚―日本・ドイツ学生対話」も、ドイツと日本の類似と相違を知る上での参考書籍のひとつとしてご案内します。

【書籍情報】山内敏弘著 信山社 学術選書9 2008年6月 (定価 本体価格8,800円+税)

※本稿文中に引用したものの外、当サイトでは以下をご参照ください。
「今週の一言」“最近の改憲動向”について(08/4/21)
「今週の一言」“自衛隊のインド洋派兵について”(07/10/22)
「今週の一言」“日本国憲法60年と改憲手続法案(国民投票法案)”(07/4/16)
「今週の一言」“自民党新憲法起草委・舛添氏の改憲論とその問題点”(06/6/26)
「今週の一言」“最近の改憲論議とその問題点”(04/10/25)
論文「国際社会における法の支配と民主主義の確立」(06/11/20)
ブックレット「改憲論が描く日本の未来像」(06/3/27)
論文「日本国憲法原理の廃棄狙う『新憲法草案』」(06/1/9)

 

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