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書籍『憲法九条と靖国神社』

K・T

本書著者河相一成教授は、「みやぎ憲法九条の会」の事務局長を務められ、戦争法に反対する運動、イラク派兵に反対する運動などにとりくんでこられた方です。河相教授は、昨年3月に刊行された本書“誕生”の直接のきっかけとして、次の二点を挙げておられます。
一つは、宮城・研究者九条の会の結成記念集会における講演で、広中俊雄東北大学名誉教授が、憲法九条=平和主義、で満足するだけでは不十分、いまや自民党新憲法草案においても“平和主義”は残す、と言っているのだから、という厳しい問題提起をされたこと。もう一つには、みやぎ憲法九条の会の西沢晴代世話人から05年8月15日付朝日新聞掲載の『白鳥書簡』に関する解説記事について、示唆を受けたこと。
この二点に係る問題意識を念頭に、「自民党新憲法草案」とそれに酷似する安倍(前)首相の唱えた「戦後レジームの見直し」の歴史的・思想的背景を探り、それらが憲法九条の思想と真正面から対立するものであることを明らかにすることを目的として、本書は生まれました。

まず、上述した問題意識のうちの後者『白鳥書簡』に関わる詳細な分析検討が、本書の特長のひとつと言えるでしょう。『白鳥書簡』とは、戦時中は外務官僚を務め、1946年1月A級戦犯として終身刑を受け巣鴨拘置所に収監された白鳥敏夫が、その前年12月に、吉田茂宛に渡した書簡を指します。当の書簡は、吉田から検閲のためGHQにいったん渡され、吉田に返還されてから次に当時の首相幣原喜重郎の手に渡ったとされています。
本書は、この書簡全文を掲載しており大変興味深いものですが、著者は『白鳥書簡』の意味を(1)マッカーサー・ノート前に日本側から「戦争放棄」が提案されたことを裏付ける唯一の具体的な資料であること、(2)白鳥の「戦争放棄」の提案は、純粋な平和主義から生み出されたものではなく、「天皇制(国体)護持」のためにGHQの歓心を買う計算が働いていたと考えられること、と位置づけています。
けれど、国民は、第九条の平和主義の思想を受けとめ、当時の支配層の思惑とは無関係に、「人間の尊厳を開花させる『永遠平和の思想』(カント)に向けて日本国民の思考を形成し、それを誇りにしてきた」(p.63)と著者は述べています。

しかしながら、今日の政治状況を念頭におくならば、第九条をたんなる平和主義にとどめず、“「人間の尊厳」の思想を「平和」の思想に浸透させることが鍵になる”として、冒頭に述べた問題意識のうち前者へと、著者は論考を進めてゆくのです。
そこで、「改憲」勢力の歴史認識の主柱たる靖国神社の位置づけと、敗戦にいたるまでの日本の史実―人間の尊厳をいかに踏みにじってきたか―とを、つぶさに追いながら、支配層の歴史認識が検証されます。そしてそれが、憲法第九条を支える歴史認識と、真っ向から対立するものであることが、明らかにされるのです。

ところで本書著者は、靖国神社の性格と歴史観を検証する中で、今、なぜそれが甦るのかについて、稲垣久和教授の論述を引きながら、“将来の戦没兵士追悼施設” の必要性を見越した靖国神社の“復権”、国民統合への道筋(シナリオ)について言及されています。ここに引用される稲垣久和教授は、国家(公)と個人(私)との関係、そこで宗教がどういう役割を果たしたか、「愛国心」と宗教のかかわりを、書籍『国家・個人・宗教―近現代日本の精神』(講談社現代新書)で論じておられます。次回当欄でとりあげたいと思います。

人間の尊厳を核とする歴史認識を育むことは、日本社会の未来をどう築いてゆくかを考察するのに必要不可欠であると、今回とりあげた書籍でも強調されています。ドキュメンタリー映画「戦争をしない国 日本」(マンスリー上映会のご案内はこちら)は、映像によって歴史の真実に迫るものです。また3月15日より開講した連続講座「憲法の考え方」も、憲法理念の本質を習得するのに好適です(オンライン配信も予定しています)。これらの機会をご利用くださいますようあわせてご案内します。

【書籍情報】河相一成著 光陽出版社 2007年3月 (定価 本体1,143円+税)

 

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