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書籍『ルポ貧困大国 アメリカ』

K・T

「ER(緊急救命室)」というアメリカのTVシリーズ番組をご存知の方もいらっしゃるでしょう。日本でも時折、衛星放送などで放映しています。番組「ER」も、アメリカ社会の矛盾を医療現場から描いて興味深いものですが、本書を読むと、それすらも自由と民主主義を標榜するアメリカという大国の、氷山の一角に過ぎないと思い知らされます。

ところで、貧困問題―それもアメリカの、―が、日本国憲法とかかわりがあるのか?本書著者堤未果さんは、YES、と答えるものと筆者は考えます。本書は、
プロローグ
第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
エピローグ
と構成されています。

冒頭、サブプライムローンへの言及、無料―割引給食制度を利用する児童に供されるジャンクフード給食が生み出す肥満、災害対策予算を削り、民営化推進の果てにハリケーン・カトリーナは最悪の“人災”と化す。市場原理に任され政府の介入する医療保険制度がないアメリカでは、無保険者は4700万人存在し、盲腸炎の手術でたった一日入院した場合に請求される医療費は1万2000ドル(約132万円)。こうした実相を、著者は丹念に取材し、抉り出してゆきます。
市場原理が貫徹することで、二極化が急加速され、その行き着く先に、待ち構えているのは?軍のリクルーターです。ちなみに、軍のリクルーター自身も、この戦争と貧困ビジネスの市場原理から逃れることができない。なぜなら、イラク戦争が泥沼化する中で新兵の募集は厳しさを増し、リクルーター自身が最前線に送られないためには、どんな手段を使ってでも貧困に喘ぐ高校生やコミュニティ・カレッジの学生らの入隊者を獲得しなくてはならないからです。

読み進むにつけ、戦争遂行と、貧困・格差拡大政策、どちらがどちらを牽引しているのか、まるでニワトリ卵のような図式が浮かび上がってきます。そのことが示すのは、まさに日本国憲法9条と25条の密接不可分性であり、それを劇的な形で言い表した、一人の日本人青年の証言が紹介されます。加藤秀樹さん(仮名)は、米軍に入隊し、州兵としてイラク戦争に参加したことについてこう語っています。

「でも日本人としてイラクに行ったことで、ニューヨークにある日本のメディアにはずいぶん追いかけられました。でも、なぜそんなに騒ぐんです?苦しい生活のために数少ない選択肢の一つである戦争を選んだ僕は人間としてそんなに失格ですか?たまたま九条を持つ日本に生まれたからといって、それを踏みにじったとなぜ責められなければいけないんでしょう?
アメリカ社会が僕から奪ったのは、二五条です。人間らしく生きのびるための生存権を失った時、九条の精神より目の前のパンに手が伸びるのは人間として当たり前ですよ。狂っているのはそんな風に追いつめる社会の仕組みの方です。僕が米兵の一人としてイラクで失ういのちと、日本で毎年三万人が自ら捨てるいのちと、どちらが重いなんて誰に言えるんですか?」(p.186〜187)

加藤さんの境遇は、たまたまアメリカに在住していたから起き得たことでしょうか?「ネットカフェ難民」「ワーキングプア」これらの言葉を、日常見聞することが全く当たり前になってしまった日本社会。日本国憲法があっても、自衛隊の「情報保全隊」による国民監視が発覚、「憲法二一条が保障する『集会・結社および言論、出版など表現の自由』を脅かす行為であり、個人名の記載や集会参加者の写真撮影が憲法一三条が保障するプライバシーの権利侵害」(p.175)が明らかになった日本という国。

前記の加藤さんの重い問いに、著者堤未果さんは、エピローグで、取材の中から得たいくつかの新しいとりくみを紹介することで、答えを見出そうとしているかのようです。全体を通して本書は、著者の並々ならぬ取材努力と構成力に支えられた瞠目に値する力強い一冊であり、ご一読をお薦めします。

社会の本質を見抜く目を養うためにも、理論的確信は不可欠です。来月より開講する連続講座U「憲法の考え方」をぜひご活用いただきたくあわせてご案内します。

【書籍情報】堤未果著 岩波新書 2008年1月刊行(定価 本体700円+税)

 

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