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書籍『グローバリゼーションの権利論―民主主義とナショナリズムと人権』

K・T

2007年最終週となる当欄で、今年初頭1月に刊行された本書をご紹介します。本書著者碓井敏正京都橘大学教授のご専門は正義論、権利論などの規範哲学。その立場から、グローバル化が進む今日、時代の要請に応え得る人権論の構築を目指したのが本書です。国境を超えた人権保障の体制が生まれつつある一方、国内ではそれに逆行する憲法「改正」の危険な動き―憲法を権利保障の体系から国民の行動規範に逆転させようとする―に対する警戒感が、著者の問題関心の背景にあります。
「人権の危機は、憲法の平和主義の危機と軌を一にしている。」(p.9)

本書の構成は次のとおりです。書き下ろしの序章を除き、概ね2005年に発表された論文がまとめられています。

序章 グローバリゼーションの権利論―民主主義とナショナリズムと人権
第T部 国民国家・ナショナリズム・人権
―人権をナショナリズムの呪縛からいかに解放するか
第1章 国民国家と人権
第2章 人権は普遍的か?
第3章 民主主義とナショナリズムと人権
第U部 権利概念の新展開
第4章 権利をめぐる論争―リベラリズムと共同体論
第5章 責任と人権―責任は権利に優先するか?
第6章 自己決定と人権(1)―人間の本質としての自己決定
第7章 自己決定と人権(2)―自己責任論の陥穽
第8章 教育権と発達概念の再検討
第V部 正義論の新展開
第9章 評価と配分の哲学―大学評価を誤らないために
第10章  地球環境問題は人類共通の課題か―持続可能な地球のための正義論
第11章  環境倫理学と環境的正義―「動物の権利」「未来世代への責任」の批判的分析を中心に
あとがき

本書を読み解く鍵となるのは、まず、“共同体・市民社会”と“国民国家”とを峻別すること。その重要性が随所で述べられています。「国民統合や国民的一体感を超えて、より普遍的な地平を追求」する「視点と問題意識を、権利の普遍化のための当面の立脚点としなければならない。」(p.38)「国家中心の一元的な市民権理解を見直すこと、それが民主主義を多元化する第一歩であり、また人権の擁護と普遍化の第一歩でもある。」(p.70)
このことはまた、責任と権利の関係性を理解する上でも重要な視座となっています。例えば著者が「両者(権利と責任)はしばしば対立的に論じられるが、実は権利は責任遂行の条件であり、また社会存続の基底的条件なのである。」(p.97)と述べるとき、ここでいう“社会”に対する責任とは、“国家”に忠実である義務ではありえず、著者は今流行りの“自己責任論”への厳しい批判を向けています。
もう一つの鍵は、人権の根拠たる人間の尊厳の所以を、自己決定能力に求めていること。さらに自己決定能力を、個人の固定的なものではなく、共同体のなかで支えあうことにより発展してゆくものととらえているところに特徴があります。
このスタンスが、教育問題や環境倫理といったすぐれて今日的な、現場に直結する課題に対応する上で有効な原理的支柱の構築を可能にしているのではないでしょうか。

人権概念をめぐるこの間の理論的到達点と争点を整理し、今後を展望するという意味で、新しい年を臨むに相応しい1冊として本書をご紹介させていただきました。
来年3月より、当研究所においても連続講座U「憲法の考え方」が開催されます。世界史のなかで生成発展してきた憲法という考え方が、今日どのような理論として確立しているのかを解明する今回の講座、さらに理解を深めるためにお役立てください。

【書籍情報】碓井敏正著 明石書店 2007年1月 (定価 本体2,000円+税)

 

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