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書籍『地球貢献国家と憲法―提言・日本の新戦略』

K・T

この11月に朝日新聞社が刊行した書籍をご紹介します。本年5月3日に朝日新聞は、その紙面8ページを費やし「提言・日本の新戦略―社説21」と題して21本もの社説(本書第八章)を一挙に掲載しました。ご覧になった方もおられるでしょう。これに先立つ1年間に、朝日新聞はシリーズ企画「新戦略を求めて」を連載し(本書第一章〜七章)、「その集大成として実ったのが最後の『社説21』でした。」(はじめに p.B)
本書の目次は次のようになっています。

 はじめに
 第一章 安全保障とは?戦略とは?
 第二章 エネルギー安全保障
 第三章 グローバル化と日本
 第四章 アジアの中の日本
 第五章 イスラムと日本
 第六章 21世紀の安全保障T
 第七章 21世紀の安全保障U
 第八章 提言・日本の新戦略―社説21
 第九章 「社説」をどう読むか―識者の見方
 第十章 シンポジウム「討論・日本の新戦略『地球貢献国家』をめざして」T
 第一一章 シンポジウム「討論・日本の新戦略『地球貢献国家』をめざして」U
 おわりに

ところで、「地球貢献」とは「国際貢献」とどう違うのか。「国際貢献」の言葉が軍事貢献に重心が傾きがちだったのに対し、「地球貢献」の方は環境問題などより幅広い分野と方法を内包し、「『地球の未来』のために何ができるかというスケールの大きさ。『地球貢献国家』という言葉には、そんなニュアンスを込め」た、とあります。これが、今回の朝日新聞の提言のキーワードです。そして「地球貢献のためには、憲法9条を変えない方がよい」という結論に至った、と。この結論は、21本の提言の背後にある、1年間の取材企画の蓄積に裏打ちされたものでしょう。
しかし12年前(95年)5月の社説特集では「良心的兵役拒否国家」の考え方から自衛隊の段階的縮小と非軍事に徹した国際協力を、提言していました。それが5年前(02年)9月の時点で社説は「PKOを自衛隊の本務に」と「方向転換を明確にしていました。」(はじめに p.D)かように朝日新聞としての主張にも変遷があったわけです。この点をも踏まえて、提言の具体的内容を吟味する必要があるでしょう。

本書で描かれる「地球貢献国家」像は、「人間の安全保障」と「地球環境保全」とを二つの柱としているようです。例えばエネルギー問題ひとつをとっても、天然ガス利用にせよ原発の安全性問題にせよ、日本単独では十分な成果を挙げることはできないということが明らかにされたのではないでしょうか。アジア地域の安定のためには、日本が大国的立場からではなく「韓国やASEAN、オーストラリアなどのミドルパワーと同じ目線の高さ」(p.258)に立とうと提起していることも重要な指摘に思われます。
しかし、経済問題では、格差拡大を防ぐ手立てが必要としつつも、グローバル経済の今のありようを前提に「改革の加速こそが未来を切り開く」(p.252)とはいかがなものか。しかも問題は格差拡大にとどまらず、絶対的貧困の増大が懸念されているのが昨今の状況です。また自衛隊の活動については、国連PKOへの積極的参加と「平和安保基本法」の制定をよびかけていますが、いっそう緊密な日米協力関係の構築を掲げながら、集団安全保障体制への貢献と集団的自衛権行使とを厳密に区別した行動をとれるかどうか。疑問が残ります。

日本が「地球貢献国家」を目指すために、憲法九条は必要である。これが今回の朝日新聞の主張であることは間違いありません。同時に憲法が、時々の政権の政策に左右される存在ではなく、基本的人権擁護のために時々の政権に縛りをかける存在であることも忘れたくないものです。
いずれにせよ、国民投票法が成立した今、ますます活字媒体マスメディアの責任と真価が問われる時代にあって、今回の朝日新聞の提言は、議論を活性化させる機会を私たちに提供してくれたものといえましょう。

【書籍情報】朝日新聞論説委員室編 朝日新聞社 2007年11月刊行 (定価 本体2000円+税)

 

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