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書籍『情報戦と現代史―日本国憲法へのもうひとつの道』

K・T

それまで史実の常識とされていたことが、覆されることがあります。新たな情報の発掘によって、私たちは歴史の真相により一歩近づくことになります。歴史とは、既に定まった過去のもの、という認識自体に疑問符をつきつける、そんな歴史学のダイナミズムを本書は感じさせてくれます。

本書は本年5月に花伝社から刊行された『情報戦の時代―インターネットと劇場政治』の姉妹編として、この10月に刊行されたばかり。先行の著作“政治編”に続く“歴史編”です。著者加藤哲郎一橋大学政治学教授は、インターネット上で「ネチズン・カレッジ」(ホームページはこちら)を主宰され、著者の「『国際歴史探偵』の旅を背景にした、二〇世紀の情報戦と在外日本人ネットワーク研究の成果」(p.400あとがき)に基づき「出版世界とインターネット世界の架け橋となることをめざし」たのが本書です。

本書は、
はしがき―「短い二〇世紀」の脱神話化
序章 日本国憲法へのもうひとつの道
第T部 日本国憲法と天皇制民主主義
第U部 ゾルゲ事件と情報戦
第V部 社会主義運動と情報戦―在外日本人のネットワーク
終章 現代ロシアの日本人残留遺児
あとがき 
と構成され、ベースとなった論文・講演原稿等は“はしがき”(99年)と第V部1章(96年)を除くと、概ね2001年以降2007年本年までを初出とするもの。

本書の基調となるのは「アントニオ・グラムシが一九世紀から二〇世紀への転換を『機動戦(街頭戦)から陣地戦(組織戦)へ』ととらえた」(p.82)のになぞらえて、現代を「陣地戦」から「情報戦」への転換期ととらえる著者の現代史把握です。この観点から、第二次大戦中の「情報戦」について、個人的技量に依拠したソ連のゾルゲ機関を、機能的・集団的な機械性大工業的手法を駆使したアメリカの戦時OSS(戦略情報局)が凌駕した理由を、次のように分析します。「情報そのものの量や質だけではなく、その収集者・送り手と、受け手・分析者が、その情報が味方に有利であれ不利であれ、自分たちの目的・理想にとって意味を持つと自覚した時点で、初めて情報は意味を持ち、本格的な情報戦の武器となる。」(p.218)
アメリカのOSSは、日本についての詳細な分析と戦後シミュレーションによって「天皇を平和のシンボルとして利用する」ことを提言し、真珠湾攻撃直後から策定されていた戦後の対日戦略に大きな役割を果たしました。それが日本国憲法第1条において天皇制を存続し、その代わり第9条で日本の非軍事化を行うという戦後日本の民主主義国家体制に結実したとみるのは、“情報戦”の帰結から日本国憲法への “もうひとつの道”を読み解く、著者ならではの視角といえましょう。

ところで、20世紀の戦時アメリカ戦略情報局OSS(Office of Strategic Service)に対し、21世紀の東アジアにOSSがあります。こちらはOpen Source 
Software。頭文字が同じなのは偶然なのでしょうが、そこに“情報共有と相互理解”というキーワードの符合を見出す著者の発想も大変興味深いところです。

【書籍情報】加藤哲郎著 花伝社 2007年10月刊行 (定価 本体2600円+税)

 

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