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書籍『格差社会とたたかう―<努力・チャンス・自立>論批判』

K・T

「自立・平等・努力」――こう並べると、思わず「自由・平等・同胞愛」と、口をついてしまいそうです。そのぐらい“自立”・“平等”・“努力”という言葉は耳障りよく、現代の政治的社会的文脈から切り離されて使われる―もしそれが可能だとして―とき、頭から否定すべき価値観となりにくい側面があります。
グローバリズム時代の為政者は、そこにつけこんで 「自立・平等・努力」という“美名”の下に格差と絶対的貧困を増大させる政策を推進しているのではないでしょうか。この新自由主義的イデオロギーの虚構を、厳しく断罪するのが本書です。何故断罪されねばならないか。現に、この日本社会で、実態として憲法25条の空文化を招いている状況、格差と貧困が存在し増大しているからです。

「憲法25条に言う本来の社会保障は、無差別無限定に少なくとも『すべての国民』に、まさに真に機会平等として保障されるはずのものです。ところが経済戦略会議や竹中的機会平等論が言うセーフティネット論は、市場競争に当初から参加しない・参加できない人々に対しては、社会保障を受ける機会を皆無にしかねない議論」(p.133)「『健康で文化的な必要最低限度の生活』を日本国民すべてに保障すると謳う憲法25条は『自立できるか否か』を支援の条件にしていません。」(p.187)「自立支援型政策の導入によって25条規定が空洞化」(同)

前回、当欄でとりあげた特集「検証『改憲実態』」にも、格差社会に言及した論文が収録されています。今回は、より詳細にその実態を分析し、現在の格差拡大・絶対的貧困の増大を強く批判し克服されるべきものとして問題の本質に迫る本書のご紹介です。本書の構成は以下のとおりです。
はじめに 後藤道夫(都留文科大学教授)
第1章   格差社会の実態と背景 後藤道夫(同前)
第2章   「努力すれば報われる」とは何か 吉崎祥司(北海道教育大学教授)
第3章   「機会の平等」とは何か―そのイデオロギーと現実 竹内章郎(岐阜大学教授)
第4章   「自立支援」とは何か―新自由主義社会政策と自立像・人間像 中西新太郎(横浜市立大学教授)
第5章   格差社会論を読みなおす 渡辺憲正(関東学院大学教授)
おわりに 後藤道夫(同前)

本書からは、「努力」にせよ「機会平等」にせよ「自立」にせよ、全てを個人内部で完結させ、結果についても個人的還元で終わらせてしまうところに最大の問題があるということ、そこに「社会」というファクターを意識的に取り入れない限り、新自由主義イデオロギーに対抗する術はないという執筆者らの思いが伝わってきます。また、類書の批判的検討については、大変刺激に満ちており、資本主義システム・市場原理そのものへの問い直しを抜きにすることを許さない厳しい内容を含んでいます。その点で、かつて当欄でとりあげた書籍『格差社会 〜何が問題なのか 』なども批判的検討の対象となっていることは、さらなる議論の深化が期待されるところでしょう。

福田首相は所信表明演説で“格差是正”を口にしましたが、同時に消費税見直しにも言及しています。逆進性が強いといわれる消費税のさらなる増税は、“格差是正”と矛盾しないのか。注視する必要がありそうです。

【書籍情報】後藤道夫・吉崎祥司・竹内章郎・渡辺憲正著 青木書店 現代のテキストシリーズ 2007年1月(定価 本体価格2,200円+税)

 

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