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書籍『戦争か、平和か――「9月11日」以後の世界を考える』

K・T

 前回の当欄で、戦争で死ぬ覚悟が問われる時代を迎えたという認識に立って本年8月に刊行された書籍『あなたは戦争で死ねますか』をご紹介しました。今回とりあげる書籍は、今から5年前に9・11後の世界を「現代の戦時体制」と喝破した小田実さんの著作です。
 ご存知のように小田実さんは「九条の会」の代表のお一人でしたが、本年7月にご逝去されました。ここに改めてご冥福をお祈りすると共に、彼の思索の軌跡を辿りたいと思います。

 「9月11日」以後世界が「戦争主義」への傾倒を強めている、と本書で著者が述べるとき、その「戦争主義」とは、必ずしも戦争大好き、という嗜好を指すのではありません。戦争は決して良いことではない、という認識をもちながら、しかし「正しい戦争」というものは存在し「正義の戦争」はしなくてはならない、とする立場を指すものです。アフガニスタンはこの“理屈”で空爆されました。イラクはこの“理屈”で踏みにじられました。
 これに対し、「平和主義」とは、いかなる大義を掲げた戦争も、ひとたび始まれば「正義が勝つ」ために、あらゆる不正義の手段をとらざるを得ず、無数の人々の殺戮を伴う、それはもはや「正義の戦争」とはいえない、とする立場です。「正義」の名の下に逃れようもなく「殺される」側からの論理と倫理です。

 「平和主義」は、決して世界の“常識”ではありませんでした。第2次大戦の悲惨を経て、初めて「正義の戦争」に対する人々の疑問が「平和主義」となって「戦争主義」とせめぎあう事態が出来したのだと著者は述べます。「平和主義」の成果の一つといえるのが日本の「平和憲法」。「平和主義」を原理に据えた「平和憲法」の世界性・普遍性への強い確信がうかがわれます。そしてもう一つ世界で「平和主義」を体現するのは、日本と同じく敗戦国たる(西)ドイツで誕生した、「良心的兵役拒否」を権利として認める法制度。「平和憲法」をただの条文としてではなく、実際に「世界平和宣言」として機能させるために、「市民」の力で「良心的軍事拒否国家」を実現する方向に未来を見定める必要がある。著者からの力強いメッセージです。

 あの「9月11日」から6年が経とうとしています。9.11テロは、「被害者でありながら加害者になる」のではなく「被害者であるゆえに加害者になる」という著者の言葉を裏付けるものでした。
 あの「8月15日」から62年が経ちました。8月15日の後、軍事力を持たない、あるいは兵役(軍事)を拒否する権利を認めるという、いかなる戦争をも否定する原理に基づく憲法、あるいは基本法が生まれました。
 「『9月11日』からものごとを考えるべきでない。そこを起点として考えるとき、(中略)未来は古い戦前世界への逆行でしかない。今一度『8月15日』に立ち戻って考えるべきときに世界は来ている。」(p.92)
 今、「9.11」と「8.15」の狭間に私たちは立っています。

【書籍情報】小田実著 大月書店 2002年12月初版 (定価本体1300円+税)

 

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