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書籍『会社コンプライアンス 内部統制の条件』

T・O記

法学館憲法研究所の伊藤真所長の著作です。本書の「はじめに」にも触れられていますが、2006年の末、ミサワホームや日興コーディアル証券の粉飾決算が明るみに出て問題となりました。また、2007年の初めには、不二家が製造過程で期限切れの材料を使用していたことが問題となりました。こうした違法行為・不祥事により、株主や投資家は損害を受けます。

このような損害を防ぐための仕組みの一つが、「コンプライアンス=法令遵守」です。伊藤氏は、この「コンプライアンス」の大枠を、「他者への共感」という言葉で示します。つまり、自分が買いたくないものを、商品として出さない、ということです。先の例に当てはめて言えば、粉飾決算をしている企業の株式を買いたいと思うか、期限切れの材料を使用したお菓子を買いたいと思うか、ということです。

伊藤氏は、コンプライアンスについて、それが日本でも注目されるようになってきた背景を(1)企業に求められることが増えた(いわゆる、企業の社会的責任)、(2)国民の意識の高まり、(3)規制緩和による自己管理の必要性の3点にあると分析します。にもかかわらず、日本においてコンプライアンスが定着しない理由として、身内主義的な企業経営にあるとします。そして、日本における企業の粉飾決算や企業の不祥事隠し、談合などの事例が紹介され、それぞれの事件の説明や、原因の検証がなされています。

こうした問題を踏まえ、それに対処するためのコンプライアンスや、企業による内部統制について、立法・行政・司法の三権分立に範をとったシステム(立法=株主総会、行政=取締役会、司法=監査役)や、その執行の仕方(特に、「手続き」が重要であること)、あるいは問題点などについての解説がなされます。また、コンプライアンスが果たされなかった時の制裁について、法的制裁と社会的制裁の二つに分け、丁寧な説明がなされています。

伊藤氏が訴えるのは、「他者への共感」「個人の尊重」という憲法的価値が、企業のコンプライアンスにおいても重要だということです。事故や不祥事を防ぐだけでなく、事故や不祥事があった際の対応においても、です。そして、そこでいう「他者」は、企業の経営に直接の利害を持つ株主だけでなく、従業員や消費者も含まれます。また、従業員は、企業のコンプライアンスを監視する役割の担い手としても位置づけられています(内部告発がその例)。

「他者への共感」は、終章「会社は本当は誰のものか」においても強調されています。会社は、取引先、仕入先、納品先、従業員、消費者と、様々な関係の中でのみ存続できます。周りを大切にすることが、会社への信頼を高め、業績をよくしていくことにつながっていくという考えです。こうしたことを踏まえ、「会社は誰のものか」という問いに対し、伊藤氏は、従業員が、働くことで自己実現をする場である、という考えを提示します。先にも紹介したとおり、伊藤氏は、従業員を内部統制・コンプライアンスの担い手としても捉えますから、企業において、従業員は「主体」として取り扱うという考えを採用しています。そして伊藤氏はさらに、コンプライアンスで求められる「他者への共感」のレベルを、世界中の人類を超え、地球上の生命にまで延長します。つまり、「コンプライアンス」は、法令に従うということだけでなく、社会的な要請、そしてさらには地球の要請に従うというレベルにまで発展することになります。コンプライアンスを考えるに際して、ここまで発想する伊藤氏の思考の柔軟性には驚かされました。

本書は、近年よく耳にする「コンプライアンス」について理解を深めることのできる良書だと思います。特に、憲法的価値である「個人の尊重」や「他者への共感」というものをその思考の根底にすえた考えは、非常に刺激的でした。こうした問題に興味のない方にもお勧めの一冊です。

【書籍情報】2007年2月に講談社現代新書から刊行。定価720円(税別)。

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この書籍の出版記念講演会が下記のとおり開催されます。
詳しくはこちらへ。
(法学館憲法研究所事務局)

【日時】  4月22日(日) 18:00開演(17:30開場)
【会場】  新宿・紀伊國屋ホール(紀伊國屋書店新宿本店4階)
【入場料】 1,000円(全席指定・税込)
【前売】  3月19日(月) 発売開始
【前売取扱】キノチケットカウンター(紀伊國屋書店新宿本店5F 受付時間 10:00〜18:30)
【主催】  紀伊國屋書店
【協力】  講談社・伊藤塾

 

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