法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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書籍『近代化と世間 −私が見たヨーロッパと日本』

H・O

なぜ、どのように憲法というものが出来たのかを理解する上で、西洋中世史は欠かせません。当研究所が浦部法穂教授による連続講座「世界史の中の憲法」を開講し(そのオンライン受講もできます)、フランス革命など中世のヨーロッパ社会とそこでの市民たちの要求などを学びはじめたことから、参考になるのではないか思い、この本を読んでみました。結構難しい記述もあり、この本をトータルに評することはできませんが、憲法の考え方を理解する上で有益なことがたくさん記述されていました。
土地や教会、ギルドなどに縛られていた農民や手工業者たちがその束縛から脱し、自由を求めた結果できあがったのが近代の憲法です。したがって、この憲法は一人ひとりの人間を「個人」として尊重することが謳われることになりました。この本は、この「個人」の成立の歴史を、ヨーロッパと日本を比較しながら解明しています。著者である故・阿部謹也氏は「贈与慣行の見直し」ということを取り上げ、ヨーロッパで「個人」というものが確立していった経過を振り返っています。今日、お中元やお歳暮を贈ったり、人を訪問する際に手土産を持参することは、日本社会で広く行なわれていますが、現在のヨーロッパではほとんどそのようなことはないそうです。著者は、贈与慣行が続いていることが個々の人格の対等な関係の成立の妨げになっていると指摘しています。そして、一方贈与慣行が根強く残っている日本における「個人」の自立の遅れを指摘しています。
著者は具体的なエピソードも示しながら、ヨーロッパ人と日本人、そしてその社会を比較しています。ドイツでは優先道路を走っている車はスピードを落とさずに走ることができるそうです。事故が起こった場合でも優先道路の自動車が完全に有利なのです。日本で事故が起こった場合はどちらにも責任があるとされますが、ドイツの場合は権利と義務の関係が明白なのです。ドイツでは医師が患者の生活に指示を出しますが、患者がそれを守らなくても、それは患者の権利だと言って決して怒らないそうです。患者を「個人」として尊重しているからなのです。これも日本とはだいぶ違うようです。
著者は、全体として日本社会においては「個人」が自立していないこと、それは「個人」が自立し、ものごとの合理的・理性的な判断が重要とされるヨーロッパ社会とは大きく異なっていることを指摘していると思われます。著者は一方で、キリスト教の影響のもとで築かれてきたヨーロッパの科学の到達点にも懐疑の目を向けているのですが、基本的には日本社会の集団主義的な問題点を考えさせる書だと思われます。一人ひとりが「個人」として自立し、お互いの人権を尊重し合う関係を築いていくことが、憲法が唱える「個人の尊重」ということなのだろう考えさせられましたので、ご紹介します。

【書籍情報】2006年12月、朝日新聞社から「朝日新書」として刊行。著者は阿部 謹也氏。価格は735円(税込)

 

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