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論文「二一世紀の国家及び国際社会の動向と日本国憲法」

T・O

国際社会において、日本国憲法、とりわけ平和主義がどのような地位を占めているのかを論じたのが、この武者小路公秀教授の論文です。
武者小路教授は、現在の世界秩序について、アメリカとその指導下にある国々によって、いうことを聞かない「ならず者」国家に対して先制攻撃がなされるようになったことで、新たな「帝国」秩序が登場したと分析します。この「帝国」秩序の下で、国家間の国境を越えた危機管理体制が編成されつつありますが、他方で、限界があり、不法移民の大量流入などにより、周辺地域では国家の支配が及ばない状況も現れているとします。こうした地域では国の統治が及ばず、「テロリスト」の巣窟と見なされます。
武者小路教授は、こうした状況の下で、「破綻国家」と「ならず者国家」が現れているといいます。教授は、いずれの国家も、国家自体の劣等性に由来するのではなく、外発的な影響によることを強調します。「破綻国家」について言えば、グローバル経済がローカルな経済生活の開発・発展に寄与できていないからという面があることが指摘されています。また「ならず者国家」は、覇権国側と相互にけん制しあう反覇権司牧国家であると定義します。そして、いずれの国家も、グローバル政治経済秩序の中で生まれた国家類型であるとされます。
また、「普通の国家」も、自立的ネオリベラル国家、サバルタン・ネオリベラリズム国家(ネオリベラリズムの大競争に巻き込まれ、これに受動的に参加しつつ、支配層の中にネオリベラル・グローバル化に協力する分子と抵抗する分子が存在する国家)、修正ネオリベラル国家、対ネオリベラリズム抵抗国家の4つに分類できるといいます。「帝国」秩序は、こうした多様な国家を、それぞれ否定することなくグローバルなネオリベラル秩序に組み込むことにその特徴があり、一部を「ならず者」として敵として、反テロ戦争によって一致団結し、結束を強める安全保障システムとなっています。教授によれば、現在は、米国を中心に、このシステムの中でパワーゲームが行なわれているとされます。
加えて、現在は非国家主体も、帝国秩序の形成に加わっています。その一部がテロリスト勢力とされ、グローバル諸国家の共通の敵とされます。これにより、国連よりも広く非国家主体の参加する覇権装置が生まれると指摘されています。この中で、グローバル・ガヴァナンスが生まれてきています。しかし、市民運動のひとつである世界社会フォーラムに代表されるように、反覇権の動きがあることも事実です。「帝国」の下で、この二つが対立しているのです。
こうした中で、教授は、「人間の安全保障」と「平和的生存権」、戦争と軍事力の放棄というセキュリティシステムの役割に注目します。教授によれば、冷戦の終結、グローバル化により、例えば地域紛争によって最貧層の人々が他国へ流れこみ、こうした人々を守るために、「人間の安全保障」が登場しました。人間の安全保障とは、国連「人間の安全保障」委員会の報告書によれば、「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」とされます。これは、日本国憲法前文の「平和的生存権」を思い起こさせるものです。そして教授は、一人ひとりの人間に着目して、その自由と可能性が保障されることを目指す「当事者中心主義」が大切であると主張します。
最後に、日本国憲法第9条に具現化された戦争放棄は、戦争を、国際・国内紛争すべてについての解決手段としないことで、反テロ戦争に現れた先制攻撃に対する最も効果的な禁止策であると評価します。そして違反者に対しては、国際刑事裁判所で裁くことを主張し、日本国憲法の平和主義を今こそグローバル規模で実施すべきことを訴えています。
教授も指摘するとおり、世界は今、米国を中心とする「軍事による平和」を目指す動きと、市民運動を中心とする「軍事によらない平和」を目指す動きとに二分されています。日本国憲法が掲げる「平和的生存権」や戦争放棄が後者の方向性を目指すことは明らかだと思います。日本国憲法が制定された歴史的意義に鑑みて、今の政府のあり方などを考えていく必要があると思います。

【論文情報】法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証』(日本評論社、2006年)所収

 

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