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論文「中国の視座からみた憲法平和主義の行方」

T・O

憲法を改正するかどうかは、まさにその国の問題です。しかし、日本国憲法第9条は、日本がアジアを侵略し、多大な被害を与えたことへの反省に鑑みて制定されたという歴史的な経緯もあり、9条改憲の問題は、アジアからも注目されています。その中でも、中国側から見た9条改憲の問題を扱うのが、この季衛東教授の論文です。
中国では、かつて日本の侵略を受けたということもあり、憲法9条がかなり高く評価されているそうです。そして、日本国憲法の前文や各条項の機能を総合的に理解することから、国民主権、基本的人権尊重、平和主義の根本規範性が強調され、人権の尊重が9条と一体化してなされているという理解から、9条1項のみならず、2項も改正の限界をなすと理解されているそうです。
そして9条は、相互主義を前提とせず、また国際協調的平和生存権を提唱することから、「一国平和主義」を超えて、憲法秩序の進化の方向性と、国際社会の発展の未来像を先取りしたものであると、季教授は捉えます。また、9条が「特殊」だといわれることに対し、季教授は、侵略戦争への反省、アジア諸国民への配慮、地域的安定性などの合理的判断に基づいて制定された、極めて「正常」な制度設計だという評価をしています。
他方で、中国においては、自衛隊の存在や海外派遣が9条の変遷として捉えられており、特に「有事法制」については、「専守防衛の原則の棚上げ」との評価も受けているそうです。しかし、それでもなお、9条に対する期待は強いといいます。その理由は、第一に、日本国民の平和に対する強い意思や、それに対する努力が評価されていること、第二に、戦争のコストを最小限にするための覇権国の策略を暴露し、国民意思に基づかない国民犠牲を回避できるはずの安全出口を明示する効果にある、と季教授は指摘します。
しかし、日本における9条改憲論は強くなっています。その理由は、中国脅威論、「北朝鮮」による核開発の問題、台湾独立をめぐる海峡の緊張などにあります。この中国脅威論に対して、中国側は、(1)経済発展が遅れており、山積した内政問題を解決するためには、長期的な国際平和が必要である、(2)アメリカとの軍拡競争で疲弊し崩壊したソ連の二の舞を演じようとするわけがない、(3)国防費が多いとはいえ、国民一人当たりの平均規模やGDPに占める割合から見て、世界の脅威にはならない、といった反論をしているそうです。そして、こうした論理にのっとった政策・外交を行なってきていると、季教授は主張します。また、季教授は、靖国問題について触れ、靖国参拝が、日本の憲法体制・平和主義という根本規範に関わる問題であること、中国でも改憲との関係で懸念が広がっていることを指摘しています。
季教授は、最後に、東アジアにおいて、ソフト・パワーの重心が平和主義を機軸として移行しつつあることを指摘し、その中においては、日本は改憲に慎重であるべきことを主張しています。
季教授の言う通り、憲法は、一国の内政に関わる問題です。しかし、日本国憲法はかつて日本がアジア諸国を侵略し、多大な被害をもたらしたことへの反省に基づいて制定されています。そうした事を考えると、「この国の憲法感覚を診る」で水島朝穂教授も指摘されているように、東アジアの将来にとって、日本国憲法とりわけ9条を変えることがどのような意味を持つのかを踏まえて、この問題を考える必要があるでしょう。

【論文情報】法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証』(日本評論社、2006年)所収

 

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