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論文「経済界の憲法観」

T・O

現在、憲法「改正」の主張は経済界からも強く主張され、政治献金などを通じて、自民党や民主党の主張にも影響を与えつつあります。その経済界(具体的には、経済同友会、日本経団連、商工会議所)の憲法観や、その憲法間に基づいてどのような提言を行なっているのかについて検討をしたのが、植村勝慶教授の論文です。
まず、経済界がどのような理由から改憲を提言しているのかについてです。経済同友会は自分たちの手で憲法を作るべきだとして主権者意識の覚醒を訴え、経団連は9条と現実の乖離を指摘して、21世紀にふさわしい国の針路を示すべきだと主張します。商工会議所も、現実と規範の乖離を根拠としています。植村教授は、これらの改憲の必要性が、きわめて形式的・静態的な憲法観を前提としていると指摘します。そして、政治に国民の声が届いていなかったとすれば、その原因は、憲法にではなく、議会制民主主義のシステムの不全にあったのではないかとして、動態的な憲法間に基づく戦後政治の実態の検証の必要性を主張します。
続いて、経済界が主張する、憲法の「改正」の内容についてです。経済同友会、経団連はいずれも日本の歴史や文化を書き込むことを主張し、商工会議所は、日本人のアイデンティティに触れています。これらの要求は、憲法を学ぶことを通じて、日本人のアイデンティティが形成されることが期待されていることが伺えると植村教授は分析します。そして、これらに対し、単一の文化が存在するという想定が説得的でないこと、歴史・文化・アイデンティティ等がいずれも抽象的であることなどを指摘しています。
さて、「改憲」の具体的内容ですが、経済同友会は9条に触れていません。しかし、解釈改憲で集団的自衛権を認めていくことが示唆されています。他方、経団連と商工会議所は9条改憲を求め、自衛隊の保持の明確化、国際貢献のための自衛隊の活動の明記、集団的自衛権を自衛権に含ませること、詳細は法律にゆだねることなどが示されています。これに対して、植村教授は、集団的自衛権行使の歯止めが法律にゆだねられることの問題性や、自衛隊の海外派遣を理念のみで正当化しようとしている点を批判しています。
9条改憲に加え、これら3団体は、いずれも改憲手続の緩和を求めています。その理由は、手続が厳格すぎて「改正」できなかったことに求められています。これに対し植村教授は、改憲がなされなかったのは、国民の多数が改憲を望まなかったことにあると批判します。また、国民投票を経ない改憲手続が示されている点に対しては、国民主権の行使の不十分さへの批判と矛盾すると指摘しています。そして最後に植村教授は、自民党・民主党への影響の大きさを考慮して、これらの改憲論が実際の憲法改正の要求を先取り的に示したものとして、注意を促しています。
近年、雇用形態が変化し、派遣社員やフリーター等、不安定で低収入の労働者が増える一方で、大企業は労働者の使い捨てや法人税の減税等で収入を伸ばし、企業のトップの収入が増大し、これにより、格差が広がっています。経済界の改憲は、こうした問題に取り組むどころか、むしろこうした問題をより深刻化させてしまいかねないものです。経済界が政治献金を通じて、政党に大きな影響力を行使している現在、経済界の動きにも注意を払っていきたいものです。

【論文情報】法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証』(日本評論社、2006年)所収

 

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