法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp


 

徳島

<<戻る
進む>>
一覧表へ>>
公安条例事件
T・O記

1968年12月10日、徳島市内において、安保条約や在日米軍基地など反対するデモ行進が行われました。その際、デモに参加していた寺前学さんが、蛇行進をしたこと及び、蛇行進を先導したことを理由に、道路交通法違反、徳島市公安条例違反などとして逮捕され、その後起訴されました。この事件の争点はいくつかありますが、ここでは、公安条例によるデモ行進の規制について見ていきたいと思います。

デモ行進は、憲法第21条が保障する「表現の自由」の一形態として保障されるとするのが学界・判例の一致した見解です。これに対して、「公安条例」は、こうしたデモ行進について、「交通秩序を維持すること」といった要件を課すもので、デモ行進などの取り締まりに利用されてきました。そこで、こうした公安条例が、表現の自由を侵害するのではないかという点が問題とされてきました。加えて本件では、「交通秩序を維持すること」の意味があいまいであり、権力者側が恣意的にこの条項を適用する可能性があるのではないか、また市民が処罰を恐れて、本来なら許されるデモ行進も自主規制してしまうのではないか、という点も問題とされました。

徳島地裁1972年4月20日判決、および高松高裁1973年2月19日判決は、徳島市公安条例にいう「交通秩序を維持すること」の意味があいまいであり、何をもって犯罪とするかの要件が不明確であって、憲法第31条に違反すると判決しました。

これに対し、最高裁は、公安条例の文言が抽象的であることは認めましたが、デモ行進に際しての道路交通の秩序維持についての基準を読み取ることは可能であるから、明確性を欠くものではなく、憲法第31条に違反するとはいえないと判断しました。

しかし、「交通秩序を維持すること」という文言から、はたして、どのようなデモ行進であればこの条項に違反しないのか、という点を読み取ることは困難ではないでしょうか。デモ行進は、ある程度の人数が集まれば、交通秩序に何らかの影響をあたえるものです。実際、徳島地裁判決は、デモ行進が「多かれ少なかれ交通の秩序を乱すことになるのは、集団行動等を許容する以上ある程度やむを得ない」と認めています。であるとすれば、やはりこうした文言は、不明確であるといわざるを得ないのではないでしょうか。

なお、2002年から2003年にかけて、アメリカによるイラク攻撃の現実性が高まった際、日本においても、「ピースウォーク」や「ピースパレード」といったデモ行進が各地で行われ、多くの市民が参加しました。しかしこうしたデモに際しては、警察の機動部隊がデモ行進の集団を両側から挟む、いわゆる「サンドイッチ・デモ」の形態がとられることが多々ありました。これは、デモ行進を危険視するものであり、表現の自由の行使として認めているものとは到底いえないでしょう。

デモ行進は、市民が行なうことのできる表現行為として、非常に貴重な手段です。ここ最近でも、教育基本法の改定、国民投票法の成立などに際して、各地でそれに反対するデモが行われました。今後も、共謀罪の導入や、改憲に際して、多くのデモ行進が行われると考えられます。本件は、そうしたデモ行進がもつ意義や、権力者がデモ行進をどう捉えているのかを考える格好の素材を提供しているように思われます。