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中津川市議会における発声障がいをもつ議員へのいじめ損害賠償請求事件
T・O記

 選挙によって選ばれた議員が議会において発言をすることは、代議制民主主義を採用する国・地方自治体においては、非常に重要なことです。議会において議員が発言できないと、その議員に投票した市民の声が議会に反映されないことになってしまうからです。

 岐阜県中津川市議会の議員であった小池公夫氏は、2002年10月、下咽頭ガンにより声帯を失い、発声することができなくなりました。そこで、小池氏が所属する日本共産党は、中津川市議会運営委員会に対し、質問を文書でさせてほしいと申し入れました。しかし委員会は、質問や発言は口頭で行うのが原則であるとして、その申し入れを認めませんでした。結果として、小池氏は、事実上、議会での発言ができないことになりました。

 小池氏は、2003年4月、中津川市議に再選されました。そこで日本共産党が、代読による質問や、ホワイトボードを使っての発言を申し入れました。しかしこれも認められませんでした。その後、共産党の度重なる申し入れや市民の運動もあって、2005年12月、小池氏の発言について、委員会での代読が認められました。しかし、本会議における一般質問の代読は認められず、小池氏は、議員2期目の間、一度も一般質問に立つことができませんでした。そこで小池氏は、中津川市と、代読に反対した議員らに対し、損害賠償を請求する訴訟を提起しました。

 小池氏は、声を失った後も、議員に再選されています。つまり、中津川市民は、小池氏の声を議会に反映してほしいと望んだわけです。それにも関わらず、小池氏の発言について代読を認めないというのは、小池氏の発言を事実上封じるものであり、小池氏を選出した中津川市民の意思を無視するものであって、議会制民主主義の理念に反すると考えられます。

 また、代読による発言を認めないというのであれば、声を失った障がい者は事実上、議員になることができないことになります(議員の活動はさまざまですが、議会における質問・発言がその中心を占めることに争いはないでしょう)。この事件は、障がい者の人権という問題にも通じる、重要なものだといえます。

 訴訟は現在、岐阜地裁に係属中です。司法がどのような判断を行うのか、注目していきたいと思います。

<小池前市議会議員のホームページ

<投稿> 普通の感覚が通らない中津川市議会の不思議

林真由美(弁護士・「中津川市議会における発声障がいをもつ議員へのいじめ損害賠償請求事件」弁護団事務局長)

 私がこの問題を知ったのは、2004(平成16)年の夏、新聞報道によってでした。声の出ない市議会議員の発言方法が問題になっているという事態は、全く不可解でした。ハンディのある人の政治参加を阻もうとしている市議会の動きは、「よく恥ずかしげもなくこんなことが出来るなあ」と逆に感心してしまうほどでした。

 その後まもなく、小池さんのご家族から相談を受けました。議会運営委員会で、小池さんにパソコンの音声変換ソフトを使うことが「認められた」ことを知りました。小池さんが希望もしていない、使ったこともないパソコンという方法を勝手に決めたのです。しかも委員会の中では「発声できるようになると言って当選したのだから」「小池議員にも努力してもらわないと」などの発言があり、小池さんの発言に敢えてハードルを設けようという悪意が明らかでした。なぜ障害のある人をここまでいじめるのか、怒りを通り越して呆れるばかりでした。

 とはいえ、当初私は裁判という手段には反対でした。こんなばかげた事態は時間をかけて裁判をする価値もない、全市民、全国民に広く知らせて、中津川市議会がいかに恥ずかしいことをしているのか思い知らせ、改めさせれば済む話だと思ったからです。

 しかし、中津川市議会は小池さんの代読発言を頑なに拒み続け、岐阜県弁護士会の「職員による代読発言を認めるべき」との勧告によっても、小池さんからの訴訟予告によっても、その態度は変わりませんでした。小池さんは、ついに訴訟に踏み切りました。悔しくてなりません。

 提訴後、あるニュース番組でこの問題が取り上げられ、鎌倉市議会では既に数年前から発声に障害のある議員の代読発言が認められていることが紹介されていました。鎌倉市議会の議長が、「なぜ代読発言を認めているのか」と聞かれ、「権利だからですよ」ときっぱりと答えていたのが非常に印象的でした。「何を当たり前のことを聞くのか」と不思議そうにすら見えました。これが普通の反応だと思います。

 他方、同じニュースで、中津川市議会のある議員は、「もし自分が発声できなくなったらどうするのか」と聞かれ、「議員を辞めると思う」と答えていました。障害のある人は政治に参加すべきでないという本心が垣間見えた気がしました。中津川市議会の議員たちを世論で追い詰めて考えを改めさせるのは、土台無理だったようです。

 癌の再発の危険に晒されている小池さんにとって、訴訟は大きな負担であり、提訴するかどうか随分悩まれたようです。しかし、こんなことを許してはおけない、障害者の一人として黙っていることはできないとの思いから、提訴を決意されました。被告らは全面的に争う姿勢です。小池さんの任期は終わってしまいましたが、小池さんが受けた障害者いじめの不当性を司法の場で明確にすべく、小池さん本人やご家族、支援する会、弁護団が、力を合わせて奮闘しております。小池さんのホームページにもアクセスしていただき、支援の声をお寄せいただければと思います。