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映画『陸軍前橋飛行場 私たちの村も戦場だった』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


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 「記憶を記録に」と映画のチラシの書き出しにあります。戦争の悲惨さを語り伝えていくことをねらいとした作品はたくさんありますが、ここまで「記録」ということを強く意識させられた作品はありませんでした。俯瞰的に捉えた国家の戦争の歴史ではありません。まさに「地域の戦争」の記録であり、「民衆のとらえた戦争」であり「われわれひとりひとりが経験した戦争」の記憶です。映画の副題になっている「私たちの村も戦場だった」という言葉もその実感をよく表しています。

【映画の解説】
 太平洋戦争末期に群馬県の旧群馬町(現・高崎市)に急造された陸軍前橋飛行場に関する記録や証言をたどり、戦後70年以上がたち風化しつつある戦争体験を現代に伝えていくドキュメンタリー。
 太平洋戦争のさなか、群馬県の中央部に作られた前橋飛行場だったが、利用されたのは敗戦までのわずか1年だった。建設のため田畑が強制買収され、地域の人々が駆り出され、そして完成した飛行場から訓練された若者たちが戦場に飛び立っていった。
 そしてそこには、特攻隊員と地域の人々との交流など、さまざまなドラマがあった。戦時中の村人の苦痛や忍耐生活を記録した「村日記」を清書して今に伝える住谷佳禹さんをはじめ、当時を知る人々の証言を丹念に収録した。(映画.com 「陸軍前橋飛行場」より転載)

 映画の多くは、年配の方の語る幻の前橋飛行場と戦争の記憶です。その語りに映画の前半は、わずかに残された当時の飛行場建設当時や特攻隊員の写真が重なります。いっぽう後半には戦争そのものがそうであったように、物量作戦のような撮られた米軍の戦闘の動画がふんだんにかぶさります。
 何人かのお年寄りが話す戦争当時の話は、村に伝わる幽霊話というか、何か話すのをためらわれる忌まわしい伝説のような後ろ暗さがあります。たとえば工場動員の帰りの女学生を乗せた乗合自動車が橋から落ちて若者が死んだ目撃談。大勢の娘の悲鳴が聞こえてそちらを向くと…。転落の原因は鉄や銅の供出で橋の欄干を竹で代用していたこと。それは転落を防ぐ何の役にも立たなかったこと。「戦争」の打ち明け話が語られます。エピソードのひとつひとつがこの村に迫ってきた戦争と当時の戦況とここにできた飛行場につながっていき、その後のさまざまな悲劇がみんなそこに結びついていることが分かってきます。
 そして飛行場建設が始まってから、利用され、終戦を迎える廃止されるまでの僅か1年間の間に、「戦況」の悪化と戦時の人々の苦しさが見て取れるように分かるのです。やがて戦争はその実体を現します。こんな地方であっても近くに軍需工場、飛行機工場があったばっかりに徹底的な空襲を受けます。村人たちは、痛切にその傷みを知り、それが記憶の底にしまい込まれていたのです。
 戦争末期、大量のビラが米軍機から撒かれます。それらを拾った子ども達の反応を語る語り口がおもしろい。警官も憲兵も先生も「ビラを拾ってはいかん」と言う。見つかったら大変だ。でも悪ガキたちは、隠して学校に持ち寄る。校長先生は、「毒が塗ってあるからさわってもいかん」というという。そんなの嘘だ。尻を拭いても大丈夫だった、なんてうれしそうに話します。こんなエピソードからも「先生が言っている戦争のことはだいたい嘘だ」と子ども達はすでに感じていたことが分かるのです。

 この映画の新鮮さは三つあります。
 ひとつは「私たちの村も戦場だった」。
 地域の中であの何年かの「戦争」の間どんなことがあったのか、自分たちはそれをどのように見ていたのか、そうした限定した地域の戦争の記録映画です。映画の取材が、現在の2018年であることを考えても、そうした「戦争」の実体と実感を語るのは、その頃の子ども、せいぜい特攻隊を手を振って送った女高生の世代です。彼らは「戦争」の主役ではなく、純粋に被害者とわかります。彼らはその戦争を起こした「主役」をどう考えて戦後を生きたのでしょうか。

 もうひとつは「村日記」。
 戦争当時毎日のように書き綴られた記録が軸になっています。後から思い返して言うことは何とでも言えましょうが、日記という形でその時に思ったこと、考えたことを、その時に書き記していたということで書き改めない限り、その人のその時の真実です。しかも、その内容は戦争に批判的だったりして、危険を感じてまで書き残そうとしたもののようです。強い意志を感じます。
 わたしたちはこの日記によって戦争の中で、当時の人々は、(あるいは彼個人が、かもしれませんが)戦争を、あるいは戦争を推進する体制をどう見ていたのかを知ることができます。それは事実や真実の記録というより、その時、何を見て、何を考えたかの記録です。そしてそうした方が、今現在の自分たちは、「何を考えているのか、いないのか」ということを考えるのに役に立つのです。これは記憶ではない、考えたことの記録と思います。今の私たちに役立つ記録なのだと思います。

 三つ目は「記憶を記録に」。
 映画の最後の方で、福田元首相への取材でのアメリカ公文書館の話が出てきます。そこを訪れた時、探していた写真が即座に出て来たことに驚いたこと、その印象がもとで、公文書をきちんと残す法案につくったこと。映画の作り手がとくに言いたかったのはこれだなと思いました。アメリカの公文書館の前の像に記されている言葉「過去の遺産は将来の実りをもたらす種である」

 単に戦争を語り、伝えなければならない、戦争はいけない、戦争はもうこりごりだ、ひどい、ということを伝えるためだけの映画ではありません。戦争の経験した当事者から話を聞くいわば一次資料を得る機会はどんどん失われてしまう、では何をしていったら良いのか。戦争の時、その時代の中で、人々はそこで何を考え、何を考えなかったかを記録して、今と未来に役立てていくことが「記憶を記録に」ということでしょうか。

【スタッフ】
監督・製作:飯塚俊雄
撮影:重枝昭典
構成・編集:鍋島惇
助監督:大澤未来
撮影協力:高尾隆
録音協力:田中龍雄 野村英司
ナレーター:中村万里
選曲:園田芳伸
題字:岡田芳保
イラスト:金田一夫
時代考証:森田秀策
音響スタジオ:パストラル・サウンド

配給:パンドラ
企画・製作:アムール
製作協力:「陸軍前橋(堤ヶ丘)飛行場」製作協力委員会
2018年制作/日本映画/69分

公式ホームページ:http://maebashi-hikojo.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=RljR-_q01tU
上映情報:東京地区(9月17日(月・祝)10:00〜、10月3日(水)10:00?)
     新宿K's cinema(新宿駅南口階段下る)
     そのほかの上映情報は公式サイトより




 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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