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映画『万引き家族』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 尋常でない過去を持っている人が集まって「家族」と偽って暮らしている。隠れるようにひっそりと暮らしている。
 しかしそれはある意味「家族だから」という根拠のないつながりに安心しきって、それを見つめることのない、あるいはそうした空虚なものに頼り切っている「家族」に比べて実にしっかりとしたつながりを感じさせます。
 ニセ家族を、鏡に映し出して見ることで、映画を見る人も、人と人のつながりについてあらためて見つめ直す機会を与えてくれる映画です。

(あらすじ)治と息子の祥太は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅりを見掛け、家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀を含めた一家は、初枝の年金を頼りに生活していたが…。(Yahoo映画「万引き家族」より転載)

 「この家族」のひとりひとりは、散り散りになっても、散り散りになることが本来の姿であるにもかかわらず、またこの「家族」のもとに舞い戻ってしまう。とくに子ども達。
 子ども達が、この家族から得たものはかけがえのない人とのつながりであって、それはそれぞれの社会や家族から得られなかったもの。あるいはありきたりのそれらとは違った中味の濃いものであったに違いありません。
 それが何なのか、愛情であるとか、金であるとか、生活であるとか、一人一人が自身の身に置き換えて考えてみて、答えを探し求める、そうしたことをすすめているのかもしれません。

 がさつで口が悪く、貧しく、感情的で不安定な、飾るところのない、そんな家庭の住人達。そんな「家庭」ではあるが、それを超えて、あるいはそれだからこそ、充足させているものは何なのだろうと考えます。そこに見えるのは昔は当たり前だった家族の風景。豊かさとともに表面だけを飾り、見失ってしまっているものは一体何だったのだろう。

 映画を見ていると、5歳の女の子から年寄りまで、家族の誰ひとりとして主役と脇役の関係ではありません。全部が主役であるウソの家族の物語。だからこそそれぞれの関係性というものが浮かび上がるのかもしれません。ウソを共有して家族を演じている、いわば共犯関係のような中に、本物以上に通じ合うものがある。本物以上に求めているものが強いということでしょうか。

 私が印象に残ったのは、見えない花火を「家族」が家の中から見上げているシーン。
 それは、みんなで海に出かけるシーンと相まって、彼ら「一家」の最も濃密な時間の頂点だったのでしょう。家族ひとりひとりが次々と軒下から顔を出して空を見上げる、見えないひとつのものを見ている、今までにはなかったポジションから「家族」というものを見ているように見えました。遠い記憶の中の、みんなが一緒だった頃の家族の風景をなつかしく思い起こすかのようにさえ見えました。

 子どもがニセ家族のところに戻ってきてしまうところが救いであったし、何より見終わっての心地よい印象を残してくれました。犯罪によってつながった家族なら戻って来ることがないのが普通です。しかし子ども達の中にひととき、情の強いつながりの関係があったことが、これからの、きっとそれらは子ども達の中になにか良いものとして残ると感じさせます。それがほんの少しのささやかな希望や未来といったものです。

 尋常でない人たちの、尋常でないがゆえに強く濃密なつながりは、そんなことをあまり考えることのなかった人たちにも、そうしたことに今まさに悩んでいる人たちにも、いろいろと感じ、考える機会を与えてくれます。

 是枝監督はカンヌ国際映画祭の受賞に関して文部大臣からのお祝いを「公権力とは潔く距離を保つ」と断ったことが話題になりましたが、この映画を見てそれは、彼が自分の表現と作品を大切にする見識からくるものと納得がいきました。

【スタッフ】
監督・脚本・編集:是枝裕和 
製作:石原隆 依田巽 中江康人 
プロデューサー:松崎薫 代情明彦 田口聖
アソシエイトプロデューサー:大澤恵 小竹里美
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
録音:冨田和彦
美術:三ツ松けいこ
装飾:松葉明子
衣装:黒澤和子
ヘアメイク:酒井夢月
音響効果:岡瀬晶彦
音楽:細野晴臣
助監督:森本晶一
キャスティング:田端利江
制作担当:後藤一郎
ラインプロデューサー:熊谷悠

【出演】
リリー・フランキー(柴田治)
安藤サクラ(柴田信代)
松岡茉優(柴田亜紀)
池松壮亮(4番さん)
城桧吏(柴田祥太)
佐々木みゆ(ゆり)
緒形直人(柴田譲)
森口瑤子(柴田葉子)
山田裕貴(北条保)
片山萌美(北条希)
柄本明(川戸頼次)
高良健吾(前園巧)
池脇千鶴(宮部希衣)
樹木希林(柴田初枝)
2018年/日本映画/120分
配給:ギャガ

公式ホームページ
予告編
【上映案内】TOHOシネマズ日比谷 TOHOシネマズ新宿ほか全国公開中
第71回カンヌ国際映画祭 最高賞 パルムドール受賞



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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