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映画「苦い銭」(原題:苦錢 Bitter Money)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 文字通りの密着取材でありながら、空気のようにカメラの存在を感じさせないのが不思議でした。ドキュメンタリーでナレーションすらないのに、ヴェネチア映画祭でオリゾンティ(革新的)部門で脚本賞。画期的な映画であることを示しています。映画を見た印象も不思議な感覚に取り付かれていました。
 夜行列車で、乱雑な狭い部屋の中で寝にくそうに、それでも寝続けている姿が延々と映し出されます。単調な繰り返しの仕事、長々と続く夫婦のけんか、旅先で出会った若者と一緒に旅をして、中国の若者の、それも出稼ぎの若者の仕事につきあってしまった、その暮らしの中にとり込まれてしまったような思いでした。それでも退屈しませんでした。どうしてこんな強い「見せる力」をもっているのでしょう?

 中国東海岸にほど近い浙江省湖州。縫製工場が建ち並ぶこの街では、多くの女性たちが各地から出稼ぎに来ており、住民の約80%が出稼ぎ労働者である。雲南省出身の15歳の少女シャオミンもまた、縫製工場で働くため、長距離列車に乗ってやってきた。過酷な労働環境下、一元の金に一喜一憂しながら働く人々。そんな人々の日常を、カメラは捉えていく。(Movie Walker「ストーリー」より)

 中国の今の経済活力がこのような若者の未来のない、しがない仕事によって作られていることを感じます。ワン・ビン監督はその独特のドキュメンタリーの手法で、現代中国社会の華やかな経済発展の影に潜む矛盾や暗部にカメラを向けます。
 中国製のタッグがついている衣服はよく見かけていたのですが、それらがどこで、どのように作られていたのか、いままで考えたこともありませんでした。この映画を見た後、あの宿舎の二階から見た裁縫工場の連なりなり、その下の道路で繰り拡げられる人々のぶつかり合い、狭い部屋で死んだように寝ている若者の姿、いままで想像したこともなかった光景がきっと浮かんでしまうことでしょう。

 その若者達の頭の中、なにごとも「銭」、「金」です。
 「少しでも金を多くもらいたい」。彼らはあくせく働き、やりがいのない単純労働の作業に一日中時間を費やしているのですが、それでもうまくいかないことが次々起こる。未来も希望もない、そんな鬱屈した気持ちの中で生活を送っています。
 そんな仕事に絶望して「故郷に帰る」仲間。「上海とか、もっと都会に出るんだ」「こんなとこにいられない」というのが彼らのほとんどの会話の中に出てきます。そうした流され「流れていく」というのが、ここに多くの若者達の心象であることがわかってきます。彼や彼女はこれからどこに行くのか、人が去って行く後ろ姿でたいていのシーンは終わります。
 でもそれは日本の若者達にとっても同じことなのでしょう。いまの若者達のことをどれだけ知っているのか、どんな生活、どんな仕事をさせられているのか、どんな果てしなく「流れていく」気持ちになっているのか、まったく知らないで済ましていることに気づきました。

 ワン・ビン監督は「カメラの存在を消す」という言い方をするそうです。仕事や生活の場に密着していながら、カメラをもっている人が直ぐ近くにいることを忘れてしまっているような密着感です。登場人物というか、そこに映っている人がカメラを意識しないこと、カメラマンの存在をまったく認めていないかのように振る舞うことが不思議です。
 どうしてこういう撮影ができるのでしょうか?
 どうしたらカメラの前でこのようにふだん通りのありのままの話ができるのでしょうか。中国の人は、もともと堅くなったり、恥ずかしがったりしないのか、とさえ考えてしまいます。しかしそうして見ていると突然カメラに向かって語りかけてくる彼らにびっくりさせられることもあります。映画を見ている方がちょっとハラハラします。
 そしていつの間にか、そんな彼らに親しみを感じてきます。中国に若い知り合いがいるような気になってきます。どうしようもない状況にある彼らの内面が想像できるようになってきます。きっとこのような行き場のない出稼ぎの若者達が数限りなくいるのだろうと思うようになります。
 
 最後に映画のパンフレットで知って驚きました。ワン・ビン監督は監督した映画は、10本を超え、海外で高い評価を受けているにもかかわらず、その作品内容からこれまで本国では1本も正式公開されていないということを知ったからです。そこにも今の中国国内の姿があると思いました。

【スタッフ】
監督:ワン・ビン
製作:シニア・バックマン ニコラ・R・ドゥ・ラ・モテ バンサン・ワン マオ・フイ
撮影:前田佳孝 リュウ・シャンホイ シャン・シャオホイ ソン・ヤン ワン・ビン
編集:ドミニク・オプレー ワン・ビン
2016年 フランス・香港映画 163分
配給:ムヴィオラ
2016年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門脚本賞
2016年ヴェネチア国際映画祭ヒューマンライツ賞

公式サイト:http://www.moviola.jp/nigai-zeni/

予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=14kydf7WYCA

上映案内:シアターイメージフォーラム(東京・渋谷)上映中



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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