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映画『ヒトラーの忘れもの』(原題:Under sandet=LAND OF MINE地雷の国)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 近年、わが国で公開されるデンマークの映画には、戦争と人間、とくに若者と戦争に関わって強い印象を残す佳作が多いと思います。『アルマジロ』(2010年)、『ある戦争』(2015年)など。これらは戦争に行くということはどのようなことかを否応なく若者に考えさせます。
 この『ヒトラーの忘れ物』も、第二次世界大戦終了直後のデンマークの出来事に材料をとった作品ですが、戦争が終わった後、デンマークに残された多くのドイツの若者が戦争(の後始末)に巻き込まれ、その苛酷な作業の中で、いのちを失った史実を元に描かれています。

(ストーリー)
「第2次世界大戦後、デンマークの海岸沿いに残された無数の地雷を撤去するため、元ナチス・ドイツの少年兵たちが連れて来られる。彼らを指揮するデンマーク人軍曹はナチスに激しい憎しみを抱きながらも、無垢な少年たちが次々と命を落とすのを見て良心の呵責にさいなまれるようになっていく。」(映画.com「『ヒトラーの忘れもの』ストーリー」より)

 「いたいけな」という言葉をまず頭に思い浮かべてしまうような少年兵です。
 鉄拳制裁のデンマーク軍軍曹の目を盗んでの仲間うちでの語らいや、ボール遊びに夢中になる様は、ほんとうに「彼らは子どもなんだ」と思わせます。
 しかし、彼らに課せられた仕事と生活は、苛酷をきわめています。砂浜に埋められた地雷の除去。砂浜に這いつくばって10pおきに針金で砂を刺していき、異物の感触を探ります。堅いものを感じると周辺の砂を掻き出し、爆薬と起爆装置をつなぐ信管を抜き取るのです。次の瞬間に何が起こるかわからない恐怖、すさまじいまでの緊張感は見ているだけで体がこわばり、目をそらしたくなります。
 少年たちの汚れきったナチスの軍服は、甲冑のように彼らを締め付けます。地雷につなぎ止めて離さない鎖のようです。それらは彼らに押しつけられ、決して脱ぐことを許されないナチスの戦争の責任、賠償、「ヒトラーの忘れもの」そのものです。

 彼らを引き取り、彼らによる「地雷除去」の任務を任せられたラムンスン軍曹は、ナチスによってひどい目にあったデンマーク人の憎しみをこの少年兵たちにぶつけます。「お前らが撒いた地雷だ。だからお前らの体と命を犠牲にしてでも除去しろ」と言わんばかりです。
 それはナチスによって侵略され、蹂躙されたデンマークの国民の一般的な気持ちだったのかもしれません。
 しかしどこにこれら少年兵を憎しみの対象とする正当性があるのでしょうか。どうして子どもが大人の起こした戦争の責任を、命をかけて負わなければならないのでしょうか。残忍な侵略国家に生まれたことが命を代償に責められことなのでしょうか。映画を見て少年兵の逃げ場のない姿を見るにつけ、そうした疑問がこみ上げてきます。

 歴史の中に埋もれている、言わば国の恥とも言えるこうした史実を、映画という形にして、今の人びとに、私達に考えさせようとするデンマークの映画製作者の方に強い敬意を抱きます。
 それはデンマーク人軍曹とナチスの少年兵との関係を通して戦争の矛盾を浮き彫りし、今も若者に容赦なく襲いかかっている「戦争というもの」について考えさせようと創作の意図から発しているのでしょう。

 次第にドイツの少年兵たちに、情をもってしまったラスムスン軍曹、彼は生き残って4人になってしまった少年兵をドイツに帰国させようとします。しかし軍の上層部は彼らをさらにより過酷な地雷除去の現場に送り込み、危険な作業を続けさせようとします。そのことを知った時、軍曹は4人を国境近くまで送り、逃がそうとします。その時、軍曹の中での「戦争」はどのように変わったのでしょうか。軍曹は、この後の人生、戦後をどのような悔恨と安堵をもって生きたのでしょうか。
 そして4人の少年兵たちはそれぞれどのような戦後の人生を送り、この戦争と戦争後のデンマークでの苛酷な日々を、そこで失った仲間のいのちを思い返すことになったのでしょうか。
 ラストにタイトルが厳然と示します。「2000人を超えるドイツ軍捕虜が除去した地雷は、150万を上回る。半数近くが死亡または重傷を負った。彼らの多くは少年兵だった。」
 戦争と若者について、最初から最後まで考えさせられる映画でした。

【スタッフ】
監督・脚本:マーチン・サントフリート 
製作:マイケル・クリスチャン・ライクス マルテ・グルナート 
脚本:マーチン・ピータ・サンフリト
撮影:カミラ・イェルム・クヌーセン

【キャスト】
ラスムスン軍曹(デンマーク軍)/ローラン・ムラ
エベ大尉(デンマーク軍)/ミゲル・ボー・フルスゴー
セバスチャン・シューマン(ドイツ軍少年兵)/ルイス・ホフマン
ヘルムート・モアバッハ(ドイツ軍少年兵)/ジョエル・バズマン
エルンスト・レスナー(ドイツ軍少年兵、双子のヴェルナーの兄)/エーミール・ベルトン
ヴェルナー・レスナー(ドイツ軍少年兵、双子のエルンストの弟)/オスカー・ベルトン

配給/キノフィルムズ、木下グループ

2015年・デンマーク・ドイツ合作映画・101分
公式ホームページ:http://hitler-wasuremono.jp/

2015年・第28回東京国際映画祭コンペティション部門最優秀男優賞(ローラン・モラー/ルイス・ホフマン)
2017年・第89回アカデミー賞外国映画賞ノミネート

 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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