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映画『ブルーム・オブ・イエスタディ』(原題:Die Blumen von Gestern)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 「あなたの歴史が好き、私の歴史だから」そんなセリフが語られるラブ・コメディです。
 ナチのホロコーストの被害者と加害者の孫同士が、ホロコースト研究所(州司法行政・中央研究所)での仕事を通して知り合い、ぶつかり合い、恋に落ちる。簡単に言ってしまえばそんなお話です。しかしこのセリフが出てくるまでの彼らの心の中を吹き荒れる「あらし」は、並大抵のものではありません。

 ナチ・ホロコーストの被害者の孫娘のザジが、加害者の孫トトに近づくのは、もちろん偶然ではありません。周到綿密に仕組まれていたものでした。つまりトトはホロコーストを行った親衛隊の大佐の祖父をもって生まれ、その祖父を告発した本を著し、家族からは勘当の状態にあります。ホロコーストで殺された祖母をもつザジは、トトの本を読み、それを隠してトトに近づく、といういきさつなのです。

 ラブ・コメディという形をとっているので、あり得ないような極端なキャラクターの作りや話の運びに、観る者はつい気持ちをもっていかれます。でも彼ら若者それぞれの心の底には、重い、重い「歴史」に対する問題意識が横たわっています。
 研究所での仕事は「アウシュビッツ会議」の開催のための寄付集めや講師依頼にと、目の前のことに終始していますが、もともとが歴史研究者とその研修生という主人公たちは理屈っぽく、日常会話がそのこだわりの論争になってしまいます。主人公たちの内面には、自分たちの祖父と、祖母のその極端な関係性、「殺し」「殺された」関係が厳然とあります。
 彼らがそれぞれのアイデンティティに関わるルーツとして、どうしようもなくとらわれていること、それが物語の展開と共にわかってきます。

 はじめ私は、「ドイツは過去とどう向き合ってきたか?」について興味があって、この映画を見ようとしました。ドイツでは政治、司法、教育、メディア、市民活動などさまざまな面で、ナチズムやファシズムへの反省から発し、それを後世に伝えようとすることに徹していると聞き、どのようなものか知りたかったのです。もちろん、この映画でも物語の背景にそれらを感じ取ることができます。しかしそれ以上に世代を超えた人々の中にそうしたものが、どのようなものを残しているかを考えることができました。
 そうした教育なりが、現在のドイツとユダヤの若者たち、つまりホロコーストの加害と被害の当事者の孫の世代にとってはどうなのか、それぞれの胸の奥底にかなりの部分を占めて、意識のぶつかり合い、葛藤があること、解決できないどうしようもない「やりきれなさ」になっていることを浮き彫りにします。親や祖父母の問題をどう自分たちが背負い込むか、いらだちや反発もありながら、自分たちの生き方の中で大きなものとして意識されていることが感じられます。
 そうしたことが、彼ら主人公だけの特異な問題でなく、ドイツ社会のとくに若者がもつ意識であるように感じられます。そうでなければこのような発想の映画はできてこなかったように思いますし、ドイツの観客にも受け入れられなかったと思います。
 
 ラブコメディという形で、現代のみを描いて画面は過去にさかのぼらない手法は、秀逸です。歴史が問題そのものであるにもかかわらず、祖父、祖母の時代を回想としなかったところに、「過去の問題でなく、問題は今ここにある」ということ、つまり私たちの、意識や精神の問題であることがはっきりします。
 監督はインタビューに答えて「ドイツではホロコーストがテーマだと何度も手を替え、品を替えてつくられているため、展開が読まれているんですよ。それはすでにテーマとして死んでいるということですよ」と話しています。(映画パンフレット よしひろまさみち「語られすぎたホロコースト その先に見えるもの」より)
「ホロコーストとしてたくさん語られてはいるけれども、誰もそれを自分の家族のこととして考えていない。(中略)それは問題に直面したということにはならないと思います。いまも私たちには過去について残っていることがあるんです。」
 それは戦争について、侵略について、或いは反省や謝罪について知ろう、語ろう、伝えようとする私たち自身にも向けられたものでもあるように思います。

【スタッフ】
監督:クリス・クラウス
製作:ダニー・クラウス カトリン・レンメ
撮影:ソニア・ロム
美術:ジルク・ビューア
衣装:ジョイア・ラスペー
編集:ブリキッタ・タウフナー
音楽:アネッテ・フォックス

【キャスト】
ラース・アイディンガー (トト)
アデル・エネル(ザジ)
ヤン・ヨーゼフ・リーファース (バルタザール)
ハンナ-・ヘルツシュプルンク(ハンナ)

第29回東京国際映画祭東京グランプリ & WOWWOW賞受賞
2016年 ドイツ・オーストリア合作映画 123分
配給:キノフィルムズ

オフィシャルサイト:http://bloom-of-yesterday.com/

予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=124&v=lMxkjNB9Scg
上映案内:2017年9月30日(土)から
     ディノスシネマズ札幌劇場(札幌)
     Bunkamura ル・シネマ(東京) 
     伏見ミリオン座(愛知)他全国公開


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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