法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『ヒトラーへの285枚の葉書』(原題:Alone in Berlin )


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 「子どもを戦争にとられた両親の心情、いかばかりか」見る者にそう強く感じさせて、この映画は始まります。しかしそこから、彼らは思いも寄らぬ行動を始めます。
 彼らの内面、夫婦の間に通い始めたもの、行動に動くまでの心の動き、それを抑えきった静かな演技で体現します。それは歴史を変え、人々の気持ちの中に長く熱く燃え続けるものになります。

 1940年6月、戦勝ムードに沸くベルリンで質素に暮らす労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに一通の封書が届く。それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという残酷な知らせだった。心のよりどころを失った二人は悲しみのどん底に沈むが、ある日、ペンを握り締めたオットーは「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」と怒りのメッセージをポストカードに記し、それをそっと街中に置いた。ささやかな活動を繰り返すことで魂が解放されるのを感じる二人。だが、それを嗅ぎ付けたゲシュタポの猛捜査が夫婦に迫りつつあった。(公式ホームページより転載)

 原作は、ナチス統治下のベルリンに実際にあった抵抗活動をもとに、ハンス・ファラダが1946年に書き上げた「ベルリンに一人死す」。この小説はドイツでは中学校での必修テキストになっているそうです。そのことにまず驚きます。
 こうしたドイツのナチ軍政下の弾圧、強圧的な裁判あるいはその戦後責任をめぐっての映画に、近年佳作が多いことを感じます。国民の中にそうした強い意志が働いてこうした映画が作り続けられるということに気がつきます。

 圧制下の監視社会、ファシズム下における抑圧された市民生活のリアリティがすごい。警察権力の暴虐、密告、自警団のような組織の活動。戦争に反対するビラを撒いただけで、抵抗=即死刑にする裁判の異状は、映画『白バラの祈り』でも描かれていました。そうした裁判で死刑になった数は3000に及びます。
 こんなことをすればそうしたことになる、ということを知っていて、なお行動したごく普通の労働者夫婦。何か彼らを突き動かしているのか。
 「人々がこうした情況に(問題を感じていながら)目を背け、どうすればよいかわからなかった。そうした中にあってこの二人は自分たちのために、突然反逆的な抵抗活動を始めるのです。抵抗運動は不可欠なもので、特別な教育を受けていなくても、物事が著しく間違っていたり、バランスを欠いたりしていることはわかるのだ、と思い出させてくれる」とこの映画の主役を演じたエマ・トンプソンさんが語っています。(映画パンフレット プロダクションノートより引用)
 権力による監視と抑圧の準備が進められようとしている今、それを感じている私たちは何をしなければならないのか、それには何がなければならないのかこの映画は気づかせてくれます。

 「何が彼らをそうさせたか」の部分は、映画の中でそう多くは取り上げられていません。むしろそれらは見ている人はわかることだと捨象されているようにも思います。彼らがどのように行動し、それが彼ら自身をどのように変えていったかに表現の多くが注がれているように思います。
 それまでヒトラーの恐怖政治に抑圧されてきた自分が、内側からわき起こる自由を得て、魂が解放されていく。一度は一人息子を失った喪失感にうちひしがれて冷え切っていた夫婦の間に、自由を奪ったものへの抵抗を示していくことを通して同志のような気持ちのつながりが回復され、熱いものが脈を打ち体内を流れ始める。そこで得た魂の落ち着きこそが、おそらくこの事件のことを知った人間を呼び覚まし、そのことを長く語り伝えていかなければならないという思いにさせ今に伝えられているのだろうと思います。

 わずかな時間の間に、このような社会全体が、人間と人間の関係が黒く塗り込まれてしまうような社会になってしまう恐ろしさをもまたリアルに教えてくれます。そしてそれらに抵抗し、反対し、異議を口に出していくことの勇気が、「らせん階段」のようにですが、私たちの社会をよりよいものにしてきたと言うことをあらためて考えさせられる。私たちは歴史に学び、こうした自由を求めて闘ってきた人の意志と勇気を、自分たちの中に培わなければならないと思うのです。

【スタッフ】
監督・脚本:ヴァンサン・ペレーズ
製作・総指揮:ミヒャエル・シール アリソン・トンプソン
ノーマン・メリー
原作:ハンス・ファラダ
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
音楽:アレクサンドル・デスプラ

【キャスト】
エマ・トンプソン〔アンナ・クヴァンゲル〕
ブレンダン・グリーソン〔オットー・クヴァンゲル〕
ダニエル・ブリュール〔エッシャリヒ警部〕

2016年/独・仏・英映画/103分 
後援:ドイツ連邦共和国大使館
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

【公式ホームページ】http://hitler-hagaki-movie.com/
【予告編】https://www.youtube.com/watch?v=IvpgyUxWNeg
【上映】ヒューマントラストシネマ有楽町 新宿武蔵野館 シネ・リーブル梅田上映中 名演小劇場 ほか全国順次公開

 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]