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映画『ハート・ロッカー』


                              
H.T.記

 3月7日のアカデミー賞で、世界興行収入新記録を更新した大作『アバター』を抑え、作品賞、監督賞(女性では初)、脚本賞など主要部門を含む計6部門でオスカーを獲得、「1人勝ち」と言われた作品です。

 「大手映画会社が敬遠するイラク戦争という題材に正面から切り込んだビグロー監督らの挑戦に共感が集まった」と紹介されています(2010年3月9日付朝日)。

 04年のバグダッド。首都とも思えない静まりかえる荒涼たる街路。駐留米軍の爆発物処理班の作業中に爆発が起き、班長の軍曹が爆死。後任にウィリアム・ジェームズ2等軍曹が派遣されてきました。彼は、捨て身で無謀ともいえる果敢な行動で次々に爆発物を処理し、爆弾を仕掛けた「テロリスト」から米軍本体やイラク市民を守ります。最初から最後まで趣向をこらし変化に富ませたアクションを含むシーンの連続は確かに秀逸で、西部劇ともイメージが重なります。アメリカ映画らしいヒーロー、しかも敵の見えない現代戦争の新しいヒーローがそこにいます。

 ジェームズ軍曹は、軍の論理を超えたヒューマニストという点でも型破りです。爆発物を身体に巻かれ自爆させられようとしている妻子あるイラク人の助けを求める声に答えて、タイマー付きの装置を解除するために爆発寸前まで自分の生命を賭け、爆風で吹き飛ばされ負傷します。死ななかったのは幸いでした。感動的なシーンです。しかし、実際にはあり得ない話のように思えます。

 監督は受賞式で、「イラクやアフガニスタンで命がけの日々を送る女性、男性に賞をささげたい。無事の帰還を祈っています」と語りました。「共感」を得た大きな理由でしょう。

 監督はさらなるメッセージを映画に込めています。冒頭の「戦争は麻薬だ」というエピグラフ風の言葉に虚をつかれた観客がいたとしても、最後のシーンまで観ると納得するでしょう。もっとも、「麻薬」は国家的なものであるというところまでは明確には意識させていないようです。

 確かに、画面いっぱいに、戦争の残酷さ、虚しさが溢れています。では、戦争は止めるべきか―いやいや、そういうわけにはゆかないという苦悩が描かれているように思います。武装勢力は誰かが倒さなければならないという結論にたどりつくからです。

 それは、この映画において、「武装勢力」の表情や背景は見えず、彼らは専ら市民の敵である普通名詞として登場し、一方においてジェームズ軍曹らはイラクの民衆のために戦う存在として人間性豊かに描かれているからでしょう。自爆攻撃をするためにイスラエルに向かったパレスチナ人を描いた映画「パラダイス・ナウ」と対照的です。

 イラクの人々が国際テロ組織とは無関係であり、大量破壊兵器も保有していなかったことは、開戦直後から明らかになっています。今、イラク戦争の検証が世界のあちこちで始まっていますが、オバマ政権は違法ではないという立場です。米国防総省が先月公表した「4年ごとの国防計画見直し(QDR)」は、イラク等での「戦争勝利」を掲げました。検証の視点抜きで、敵地で戦うヒーローを描くこの映画は、やるせなさと仕方なさを感じさせるとともに、戦争を追認するだけで終わっていると思います。皆さんのご感想はいかがでしょうか。

【映画情報】
製作:2008年 アメリカ
監督:キャスリン・ビグロー 
脚本:マーク・ボール  
原題:The Hurt Locker
時間:131分
出演:ジェレミー・レナー/アンソニー・マッキー/ブライアン・ジェラティ/レイフ・ファインズ/ガイ・ピアース/デヴィッド・モース
上映館:東宝シネマズ六本木ヒルズ他全国で公開中
公式サイト

 
                              

 

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