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映画「戦場でワルツを」


                              
K・T

光と影の強烈なコントラスト。アニメーションでありながら、抑制の効いた人物の動き。これら一つひとつの表現が、レバノン・ベイルートの惨劇を、観る者の心に食い込ませます。

本作は、元兵士のアリ・フォルマン監督自身の経験に基づく自伝的ドキュメンタリー・アニメーション映画です。1982年、西ベイルート地域の二つの難民キャンプ、サブラ・シャティーラで虐殺事件が発生。イスラエル軍兵士の一人として、当時現場近くにいながら、そのときの記憶一切を失っていたアリが、自らの過去を再び取り戻すために、世界中に散らばった戦友やジャーナリストらの証言を集めてゆく過程を追っていきます。
証言を辿るうちに、次第に甦ってくるアリの記憶。また、アリの記憶が何故封印されたのかも、明らかになっていきます。アリが訪ねたPTSD専門家ソロモン博士は、“現実から乖離してカメラを覗いているかのような戦場での高揚感が、あるときカメラが壊れ、現実に素手で触れてしまったことで恐怖へと変貌”したのだと分析し、アリの親友で臨床精神科医のオーリは、その恐怖の源が、アリの両親がアウシュヴィッツにいたと知った幼い日の記憶にあることを説き明かすのです。

本作で、「サブラ・シャティーラの虐殺」を描く映像に、二重写しとなるのが、ユダヤ人少年が両手を挙げてナチに連行されるあの有名な写真です。おそらくは、アリ監督の意図が働いているのだろうと思います。難民キャンプから銃で追われるパレスチナ人少年の姿が、先の写真とそっくり同じ構図で描かれます。ホロコーストのデジャビュです。パレスチナ難民を襲った惨劇は、ホロコーストと否応なく結びついていることを、私たちは知ることになります。

哲学者の高橋哲哉教授(東京大学大学院総合総合文化研究科、関連情報)が、『戦後責任論』(講談社文庫)に収められた論考「記憶・亡霊・アナクロニズム」(初出96年 成城大学文芸学部)で、「『戦争の記憶』は、人々が忘れたころに、忘却が支配しようとするときに、突然『亡霊』のように戻ってくる」(同書p.84)と語っておられることに重なります。そして、“過去の克服”のためには、「私たちはまず、その亡霊の証言を聞く必要があ」る(同書p.86)、とも。
パレスチナ難民の虐殺事件を、“南京大虐殺”に“従軍「慰安婦」”に置き換えれば、問いは私たち日本人にはね返ってきます。私たちは、十分に過去と向き合ってきたのか、と。

平和主義と平和的生存権を根底に据えた日本国憲法が、日本のアジア諸国侵略による膨大な犠牲の果てに成立したことに鑑みれば、過去を忘れたり、それどころか偽ったりする行為が“未来志向”であるとは思われません。東アジア共同体の構築も、画餅に帰してしまうでしょう。未来を拓くには、過去から記憶から、目を逸らさない勇気が必要である、そのことを教えてくれる映画です。

【映画情報】
製作:2008年 イスラエル・ドイツ・フランス・アメリカ合作、(イスラエル映画)
脚本・監督・製作:アリ・フォルマン
美術監督・イラストレーター:デイヴィッド・ポロンスキー
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン
音楽:マックス・リヒター
時間:90分
上映館:シネスイッチ銀座 他で公開中
公式サイト 

ドキュメンタリー映画「戦争をしない国 日本」は、歴史を紐解き日本国憲法の成り立ちと憲法9条をめぐる今日までの経過を、歴史映像で解明する作品です。あわせてご案内します。(DVDのご案内はこちら)

 
                              

 

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