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映画「沈まぬ太陽」


                              
K・T

既にご覧になった方もいらっしゃるでしょう。また、本作品の原作、山崎豊子氏による同名ベストセラー小説をお読みになった方も多いことでしょう。60年代から80年代にかけ、「国民航空」という巨大企業と時の政権に翻弄されながら、一人の人間として生きる道を選んだ男、恩地元(俳優:渡辺謙)。かつては、恩地を委員長とする労働組合の副委員長を務め共に闘った仲間でありながら、後には組合を裏切り、出世の階段を昇りつめる行天四郎(同:三浦友和)。二人の友情と対決を軸に、人間と社会を鋭く見つめる熱いドラマが展開されます。

原作、そしてこの映画は、“ノンフィクションではありません”。しかし、ここに描かれた「国民航空」という企業のモデルが、日本航空(政府肝いりの特殊法人として出発し、87年民営化、現在の正式名称は“株式会社日本航空”)であることは、誰にも判ります。人命を預かる航空産業で、そこに働く人々が過酷な労働条件を強いられ、労働者の基本的権利が剥奪されていれば、大惨事を招く――。

労働条件の改善が何よりも安全運航の保障であると固く信じて、妥協することなく会社側に迫った本作の主人公恩地は、カラチ・テヘラン・ナイロビと次々海外勤務を命ぜられ、実に9年間も日本に帰ることができませんでした。会社による第二組合の設立、第一組合員に対する脅迫に近い脱退勧奨工作、組合活動を理由とした露骨な嫌がらせ配転・見せしめ人事・昇給昇格差別。これらはいずれも労組法第7条に違反する不当労働行為と位置づけられるものです。その根拠は、憲法28条「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」にあります。

日本航空に関し、こんなデータがあります。1980年度経費の内、人件費の占める割合は6.5%(同時期の世界平均8.5%)、同じく整備費割合7.6%(同12.3%)。人件費・整備費が格段に低く抑えられていることがわかります。60年代初頭まで、日本航空は人身事故を起こしていませんでした。それが65年以降、異常なまでの“物言う組合”潰しが横行するや、事故件数が急増、66年から82年にかけての事故件数は世界ワースト1位です(以上資料は、今崎暁巳著『ドキュメント 日本航空』労働旬報社 1982年刊に依ります)。85年までの間に労使問題が法廷で争われた事案は、優に30件を超えます。もちろん、航空機事故は人為ミスのみが原因で起こるわけではありません。しかし、人員不足や職場の信頼関係喪失が進行する過程と事故の増加には、明らかに相関関係が存在します。会社は、これらの事実に眼をつぶり、逆に合理化と管理体制の強化をいっそう徹底した末に迎えたのが、85年8月12日、日航ジャンボ機・御巣鷹山墜落という未曾有の大惨事だったのです。

御巣鷹山に散った524名の命。かけがえのない人をいきなり奪われた遺族の心の傷。映画では、孫の顔見たさに息子夫婦に送った航空券、それが事故機123便だったという祖父坂崎(俳優:宇津井健)の痛恨の思いが、胸に迫ります。そして主人公恩地が“遺族お世話係”として、一人ひとりの心情と丁寧に向き合ってゆく姿を描いています。

日本国憲法は、経済的自由権を認めると同時に、事実上弱者の立場におかれる者の権利を社会権として位置づけることで、より具体的かつ実質的な権利保障をなすべきことを国に課していると思います。現実の社会では、企業の論理と人間の論理とがぶつかり合うことは珍しくありません。しかし本来、企業の存在意義は人々を幸せにすることにあるはずです。全てにわたって企業の論理が優先されるような本末転倒した社会は、おそらく歪み病んでいくことでしょう。

タイトル“沈まぬ太陽”とは、何を象徴しているのか。“沈まぬ太陽”とは、企業でもなければ日本という国でもない、山崎豊子氏の原作にあるとおり、そして本作のラストで恩地が、お遍路の旅に出た坂崎に呼びかけるとおり、「何一つ遮るもののないサバンナの地平線へ黄金の矢を放つアフリカの大きな夕陽(中略)それは不毛の日々に在った人間の心を慈しみ、明日を約束する」もの、理不尽で不当な暴力に、仲間とともに立ち向かう勇気そのものではないかと思います。

【映画情報】
製作:2009「沈まぬ太陽」製作委員会
監督:若松節郎 
原作:山崎豊子   脚本:西岡琢也
製作総指揮:角川歴彦
時間:202分
出演:渡辺 謙/三浦友和/松雪泰子/石坂浩二/宇津井 健 他
上映館:全国で公開中

 
                              

 

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