法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画「カムイ外伝」


                              
H・T記

 59年に長編マンガ「忍者武芸帳」を出版して以来今日まで、社会の下層に生きる人間群像を描いてファンを熱狂的に惹き付けてきた白土三平作品の映画化です。雑誌「ガロ」に連載された代表作「カムイ伝」はご存じの方も多いでしょう。江戸時代初期の農山村を舞台に、被差別部落出身の「非人」で忍者のカムイ、百姓「正助」、下級武士「竜之進」という三者三様の若者を中心に物語は展開されてゆきます。やがて、農機具の開発等による生産力の向上や藩との闘いでリーダーとなった正助を中心にした民衆自体が主人公の壮大なドラマとなります。白土マンガの登場で、子供マンガにも重厚さ、リアリティ、思想性が要求されるようになったとも評されています。

 「カムイ外伝」は、65年から「週刊少年サンデー」に連載された後、大人向けとして「ビッグコミック」誌上に再開され87年まで続きました。「カムイ伝」の番外編で、カムイのヒーロー色を強めています。今回、82年発表の「スガルの島」のエピソードを「血と骨」の崔洋一監督が映画化しました。

 被差別部落に生まれいじめられて育ったカムイ(松山ケンイチ)は、貧しさと差別から逃れるために忍者になります。「願いはただ一つ。強くなること。それは自由な人間として生きること」。しかし、忍者の生活には厳しい掟が待っていました。忍者は、しょせん武士による支配を影から支える汚れ役。目的のためには肉親さえ情をはさまず殺さなければ自分が殺されます。「自由」がないことに気付いたカムイは掟を破って抜け忍となり、命を狙われます。カムイは正当防衛以外には敵の命も奪いません。漁民の島に逃れたカムイは、彼を刺客と疑うこれも抜け忍のスガル(小雪)や藩主が放った忍者組織と言語に絶する死闘を繰り広げます。出演陣も相当身体を鍛えたのでしょう。生身のアクションの連続に息を飲みます。自由を求めて終わりのない旅が続くのか。焦慮が襲います。そんな中、救われるのは、カムイを愛するスガルの長女サヤカ(大後寿々花)の一途な愛に、カムイの心が少しずつ開かれていくことです。しかし、白土三平の世界は人間と社会の現実に妥協することなく非情です。

 映画化が企画されたのは、格差社会が社会問題として広範に意識される直前のことでした。崔監督は、そんな時代状況を観る人と共有したいと思いました。理屈ではなく、感覚、嗅覚が動いたとのことです。今、時代の枠組みが大きく変わり、逃げ切れなくなった人たち、とりわけ若者が増えています。監督は、「逃げろ」、「逃げるために闘え」、そして「生きろ」というメッセージを掲げています。カムイにとって、それ以外に生きる道はありませんでしたから。

 一昔前と違い、「自由」を求めて脱サラしても待っているのは結局非正規労働への回帰、一方における長時間過密労働・過労死や精神疾患、他方における失業による貧困の危機が働き手を襲っています。姿の見えない追忍(抜け忍を追う忍者)のようです。監督は、「アクションというのは、イコール暴力であるとはなかなか単純化できませんよね。暴力とは人間の内側にあるものだからです」と言います。家の外の「暴力」で疲れ、家の中でも「暴力」に遭ったら…。果てしなく追われる抜け忍の姿がだぶります。観る人それぞれの経験による多様な想像力をかきたててくれる作品だと思われます。

 映画のキーワードの一つとも言える、追忍の頭のセリフ。「地獄だ」。これから先の展望を開くのは、正伝「カムイ伝」の世界なのでしょうか。監督は、この映画が成功したら、正伝を撮りたいとのことです。商業映画として制作できる環境ができたら素晴らしいと思います。

【映画情報】
【製作】2009年 日本
【時間】120分
【監督】崔洋一
【脚本】宮藤官九郎、崔洋一
【原作】白土三平
【出演】松山ケンイチ/小雪/伊藤英明/大後寿々花/イーキン・チェン/金井勇太/芦名星/土屋アンナ
【上映館】全国で公開中
公式サイト 

 
                              

 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]