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映画「孫文―100年先を見た男」


                              
K・T

ときは1910年。日本に亡命していた孫文は、清朝政府からの要請で国外退去命令を受け、英領マラヤ(現マレーシア)のペナンへと逃れます。辛亥革命前夜、孫文にとって最も辛い時期でした。清朝からは多額の懸賞金をかけられた“お尋ね者”として暗殺の危険にさらされ、同志の一部からは金銭面での横領疑惑をかけられる。ペナンにたどり着いたとき、孫文は既に9回もの蜂起に失敗していました。

しかし、孫文は自ら心に描いた目標を投げ出すことなく、ペナンの地でも革命を成功に導くための資金集めに奔走します。本作は、苦境にあって輝きを放つ孫文の生き方と、そんな彼をとりまく人々の人間らしい愛憎や葛藤のドラマを描きます。

孫文が資金援助を求めた華僑の富豪シュー家の令嬢タンロンと、タンロンのフィアンセで孫文の命を狙う暗殺者でありながら、一方で孫文とその理想に惹かれてやまないルオ・ジャオリン。この若いカップルの人間的成長も見どころの一つです。
また、孫文が街で出会った埠頭で働く荷役労働者たち。過酷な労働で怪我をした労働者が苦境を訴えると、孫文はその手当をしながら、皆で団結すれば、過酷な条件を変えられるはずだと優しく諭します。
「それは、“革命”ですか?」
「いやいや、これは“交渉”だよ。」
孫文は微笑みながら、答えるのです。
おそらくは、生まれて初めて聞いたのであろう“交渉”という言葉を、繰り返し何度もつぶやく労働者の姿。そして雇用主であるシュー家と堂々とわたりあって労働条件の改善をかちとった孫文に感謝して、食うや食わずの生活の中から集めた“カンパ”を孫文に渡す労働者らの姿には、胸が熱くなります。

孫文が目指したのは、時代遅れになった皇帝を戴く清朝政権打倒であり、決して社会主義革命ではありません。しかし、革命の目的は、市井に生きる人々が人間らしい生活を営めるようにすることでした。有名な「三民主義」(民族主義、民権主義、民生主義)の精神は、埠頭の荷役労働者の心も、華僑シュー・ボウホンの心をも捉えたのです。当時の中国は、ヨーロッパ諸国列強に蹂躙され、他のアジア諸国共々植民地の地位に貶められていました。映画の中でも、ペナンの夜明けに流れるイスラム教のアザーンの響きや、孫文がその前にふとたたずむヒンドゥー寺院(と思しき建物)がさりげなく描かれています。アジア多民族・多宗教共存の願いが込められているように思います。

アメリカ独立戦争と合衆国憲法に象徴される近代立憲主義の抵抗権、それは孫文が生きた中国・清朝政府の下では死に値する罪でした―映画冒頭、ペナンへ渡航しようとする孫文と日本人支援者との会話が流される背景には、清朝への反逆罪によって公開処刑で首を刎ねられて晒し首にされる歴史映像が延々と映し出されます―が、数多の犠牲の上に、政権打倒の主張そのものが処刑の対象となることを退ける英知は、普遍的なものと認められるようになりました。

孫文が100年前に自らの命を危険に晒して主張した、自国民を虐げる政府への抵抗権と、人間が人間らしく生きる権利=生存権とは、いまや憲法原理の骨格をなすものです。しかし、その理念のどれほどを、私たちは現実社会で実現し得ているのでしょうか。
孫文は死の直前「革命、いまだならず…」とつぶやいたと伝えられます。

【映画情報】
製作:2006年 中国
監督:デレク・チウ
時間:127分
出演:ウィンストン・チャオ、ウー・ユエ、アンジェリカ・リー 他
上映館:シネマート新宿 他で公開中
公式サイト 

 
                              

 

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