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映画『沈黙を破る』


                                                           
H.T.記

 1981年に中東専門雑誌記者としてスタートし、85年からパレスチナ・イスラエルの問題について映像による取材を続けて来られた土井敏邦監督のドキュメンタリー映画です。映画は、土井監督が15年間の映像を編集して今年初めに完成させた「届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと」4部作の第4作です。土井さんのパレスチナやイラクの「戦場」からのレポートは、NHKや民放でご覧になった方も多いでしょう。


パレスチナ人に照準を合わせる「NGO・沈黙を破る会」

 これまで、日本の勇気あるビジュアル・ジャーナリストが撮影した、パレスチナに対するイスラエルの数々の迫害は、このページでも紹介して来ました(『ガーダ パレスチナの詩』『パレスチナ1948・NAKBA(ナクバ)』『ビリン闘いの村』等)。パレスチナ占領の歴史については、『NAKBA』などをご覧ください。イスラエルは、国際社会の相変わらずの無関心に力を得て、パレスチナを一層追い詰めています。昨年末から年初にかけてのガザ攻撃で、パレスチナ人の死者多数を出したことは記憶に新しいところです(非戦闘員1181人を含む死者は1417人)。軍事的経済的な力関係において極端に非対照の弱者であるパレスチナの住民は、イスラエルによる占領地の拡大によって益々狭い地域に閉じ込められ虐殺され、その生命の軽さと苛烈な生活は現代の「ホロコースト」と形容される状況に近い場合もあります。一方、「正義という名の法の支配」を謳い文句にした国連・国際社会は何ら実効的な対策を取らず放置することによって事実上これに加担しています。右手に「法と正義」。左手に「不道徳と不正義」。パレスチナの占領地の状況は、現代文明の「本当の姿」を象徴しています。


パレスチナの老婆と子供

 土井さんは、この現実に変化を起こすことを願って映画を制作しました。まず、02年春のイスラエル軍のヨルダン川西岸への侵攻作戦の中で起こったバラータ難民キャンプの包囲とジェニン難民キャンプでの多数の民間人の虐殺などの映像が改めて衝撃的に映し出されます。加えて、対するイスラエルの将兵の側の等身大の映像を「合わせ鏡」のように示しています。ここに、これまでの映画と異なる新しい視点があります。

 これを可能にしたのは、ナブルスなど占領地で戦った経験を持つ元イスラエル将兵たちが作ったNGO「沈黙を破る」の活動に出会ったからです。20歳代の青年たちが中心である彼らは、04年6月、イスラエル最大の都市テルアビブで、「沈黙を破る――戦闘兵士がヘブロンを語る」と題した写真展を開催し、体験を証言していました。“占領地に入るとまず銃を渡されます。そして老人を殴るように言われます”。“コンピューターゲーム機の前で遊んでいる感覚だ。快感の中毒みたいになる。我々が支配しているのだとパレスチナ人に示すのだ”。“狙撃手として標的を見るとき、6歳の少年も、老女もテロリストも同じ。人間を「物体」として見る”。“鏡の前に立つ自分を見ると、頭に「角」が生えている。3年間、自分が「怪物」だったと気づいた”。“私たちの「内面」が死滅しつつあるのだ。社会の深いところが死んでしまいつつある”。

 土井さんは、深く内心を省察する元兵士たちと共に、私たちに“あなた方は軍隊とはどんなものか知っているのか”と問いかけています。パレスチナ・イスラエル問題を越えた普遍的な問いです。

 土井さんは語っています。“日本の観客が、かつて侵略者で占領者だった日本の過去と現在の自画像を映し出す「鏡」としてこの映画を観ることができたら成功だ。状況を変える動きを起こす一つのきっかけになれば”。

 この映画ができてからも、先月、ヨルダン川西岸の占領地での分離壁建設に非暴力で抵抗してきたビリン村で、イスラエルはデモ隊に対する兵器をエスカレートし、新型ロケットタイプ催涙弾等を用いて頭や胸を撃ち、死者や意識不明の重傷者を出すようになりました。イスラエルは、ガザから撤収後、国際社会からイスラエル領と承認されていない東エルサレムで、パレスチナ人の住居を破壊し始めました。6万人が住居を失うと試算されています。国連人権高等弁務官は5月1日、破壊行為を即時停止するよう要求しました。しかし、日本ではこれらの事実はほとんど知られていません。


元イスラエル将校 現NGO・沈黙を破る 代表 
ユダ・シャウール

 “愛の反対は憎しみではなく、無関心である”というのはマザー・テレサの有名な言葉です。イスラエルの兵士たちは、パレスチナ人を憎んで殺したのではなく、人間であることに「無関心」でした。しかし、「国民」という集団は、「国益」のために民主主義のシステムで「不道徳と不正義」を選択しています。

 ソマリア沖で昨年1年間に「海賊」に追跡された日本関係の商船は3隻で、いずれもスピードを上げて振り切り無事でしたが、日本はこの3月、警察機能に属し世界一の装備を有する海上保安庁の外洋型巡視船でなく、ほとんど議論もないまま海上自衛隊の2隻の軍艦を出しました。「海賊」の構成やその起源は極めて複雑なようですが、海賊対処法案では、初めて「国益のため」の武力行使を認めています(伊藤真・マガジン9条4月29日号「ソマリア沖派兵と海賊対処法」)。

 「国益のため」なら速やかに武力行使しようとしています。そうでないことには無関心。根本的な発想において、日本の戦前と戦後はどこが違うのでしょうか。“無関心の責任は、政府やメディアにある”というのでは、戦前と変わりません。

 「無関心を破る」作品を作るのは私たちです。

土井監督のブログはこちら

【映画情報】
【製作】2009年 日本
【時間】130分
【監督・撮影・編集】土井敏邦
【出演】ユダ・シャウール/アビハイ・シャロン/ドタン・グリーンバルグ/ノアム・ハユット
【上映館】東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場にて公開中 順次各地で公開
公式サイト

※ポレポレ東中野では、5月23日(土)より、全4作『届かぬ声ーパレスチナ・占領と生きる人びと』も同時公開します。

※大阪・第七藝術劇場では、6月1日(月)、「沈黙を破る」の元兵士ノアム・ハユットさんと土井監督の対談が行われます。

 
                                                           

 

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