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映画『グラン・トリノ』


                                                           
K・T

「口が悪くて頑固で偏屈な“老兵”」、78歳のクリント・イーストウッドが見事に演じきっています。最愛の妻に先立たれ、愛犬デージーを傍らにポーチで煙草をくゆらし、缶ビールを傾けては空き缶の山を築く日々を送る主人公ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)。気に入らない相手に対しては、息子であろうと神父であろうと、街にのさばるギャング気取りの若者であろうと、容赦なく毒づき、罵ります。
舞台となる街は、一見アメリカの典型的な住宅地のように見えますが、いまや貧しいマイノリティの“吹き溜まり”のよう。アジア系、ヒスパニック系、黒人、そして主人公のような旧住民のポーランド系、イタリア系の高齢者たち。

きわどい“蔑称”が、主人公の口からもぽんぽん飛び出します。“米喰い虫”“ネズミ”(アジア系)、“ブラック”、“イタ公”、etc。ときには苦々しい思いを、ときには愛情をこめて。そんなウォルトの隣に引っ越してきたのは、タイ・ラオスのモン族の一家。そこに祖母・母・姉と暮らすタオ・ローは、周囲からは“腰抜け”呼ばわりされ、前途に迷いながらも、心優しい一面を持つティーン・エイジです。
ある日タオは同じモン族の不良グループから、ウォルトの愛車“グラン・トリノ”を盗むよう強要され、ガレージに忍び込みますが、ウォルトに見つかり失敗。これをきっかけに、ウォルトとタオ・ロー一家との交流が始まりました。最初は迷惑がっていたウォルトもやがて、モン族一家に打ち解け、タオとその姉スーら若者に心を開くようになります。
しかし、モン族の不良グループによるタオへのちょっかいが再燃。彼らを懲らしめたウォルトを逆恨んだ彼らの暴力行為はエスカレートし……。ついにウォルトは、ある決意を秘めて、同行しようとするタオを振り切り、単独で彼らのアジトに向かったのでした。

ウォルトには、朝鮮戦争時に従軍し最前線で17歳の少年を殴り殺したという過去があります。一方タオら、ラオスのモン族は、ベトナム戦争の際に米軍に協力したとして、米軍敗退後報復を恐れてアメリカに亡命・移民した少数民族です。ウォルトは、復員後はフォード社で自動車工として働き、自らの手で作った“グラン・トリノ”に並々ならぬ誇りをもってきましたが、今アメリカ社会で幅を利かせているのは、日本のトヨタ車。ウォルトやタオ一家らがおかれている状況は、現代アメリカの縮図です。「自由と民主主義」の国、アメリカ。ウォルトの家には星条旗が掲げられ、ウォルトもそれに忠誠を誓っていたことでしょう。なのに、今のこのありさまは、何なのか。どうしてこうなってしまったのか。ウォルトの胸のわだかまりが、伝わってきます。

もしも、アメリカが“戦争をしない国”だったら?現実の歴史の流れではあり得なかった仮定ではありますが、ウォルトとタオらをとりまく状況の全てが―あの不良グループの存在も含めて―違っていたはずです。
そしてもうひとつ。映画ラストに関わることですが、ウォルトの“決着”のつけ方は、他に選択肢がなかったのだろうか、という疑問。ひとつの選択肢であったことには納得できるストーリーです。しかしあえて憲法における“生命権”の考え方、あるいは“自己決定権”の考え方から評価するなら、人として“気高い”生を貫いたと称賛すべきか否か、いまなお本稿筆者は答を出せないでいます。

【映画情報】
製作:2008年 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
時間:117分
出演:クリント・イーストウッド/ビー・ヴァン 他
上映館:渋谷東急他 全国で公開中

 
                                                           

 

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