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映画『私は貝になりたい』


                                                           
H.T.記

 BC級戦犯の悲劇を綴った『私は貝になりたい』は、テレビ放送の草創期である1953年、TBSが初めてドラマとして制作放送しました。最近亡くなったフランキー堺が戦犯として絞首刑になる上等兵清水の役を熱演し、痛烈な戦争批判のドラマとして世間をアッと驚かせたテレビドラマの金字塔と言われます。その後、同じフランキー堺主演で映画化され、さらに1994年には所ジョージが演じてテレビドラマができました。3本とも橋本忍氏が脚本を書きましたが、今回、90歳になる橋本氏によって、家族の情愛とそれぞれの関係者の関わりが掘り下げられ、再び映画化されました。広大な太平洋を臨む土佐・高知の断崖絶壁の寒村の風景と、それと対照的な焼け跡にある巣鴨プリズンのある東京・池袋界隈の雑踏という二つのバックが、戦犯の家族の悲劇を一層立体的に浮かび上がらせています。

 貧乏な家に生まれた清水豊松(中居正広)は、東京の理髪店で房代(仲間由紀恵)と知り合って、遠く高知の海岸べりの山村でつつましく理髪店を開きます。しかし、終戦の前年召集を受け、妻と幼い息子を残して本土防衛の部隊に配属されます。

 間もなく終戦。豊松一家には貧しいながらも平穏が訪れます。そんなある日突然、豊松はBC級戦犯容疑で逮捕され、横浜で戦犯法廷にかけられます。容疑は都市空襲に飛来して撃墜されたB29の搭乗員だったアメリカ人捕虜の殺害でした。縛られた捕虜を前に、豊松はしり込みしますが、「上官の命令をなんと心得る!天皇陛下の命令だ」と強制され、歯を食いしばりながら銃剣を突き刺そうとしました。しかし結局腕に怪我を負わせるに留まり、上官から足腰が立たなくなるほど暴行を受けました。

 豊松は法廷で弁明しますが、自分の意思で殺害したと認定され、絞首刑の宣告を受けます。豊松に命令した上官は有期刑でした。豊松は合部屋の戦犯(笑福亭鶴瓶)の勧めで再審請求に望みを託します。再審請求に添付するため、房代は高知の雪の山の中の一軒一軒を訪ねて助命嘆願書への署名を必死で集めます。しかしながら、ほとんどの家が「恥さらしめ」と戸をぴしゃりと閉めて追い出します。

 講和条約の知らせも房に伝わり、囚人たちも釈放の期待に胸をはずませていた春のある日、突然豊松は刑の執行を受けます。妻と子供たち(投獄中に娘が生まれていました)の写真を握りしめながら。

 国家や軍隊、そして戦争裁判や死刑という制度について、深く考えさせられる映画です。豊松が戻った理髪店での客との間にこんな会話があります。「(戦争起こした奴らの裁判を)アメ公がやらんならこっちがやるよ。良かったな。俺たち二等兵で」。「戦争をおっ始めたやつらは捕まらんで戦争でひどい目に合うのは庶民ばかりだ」。絞首刑になった司令官(石坂浩二)は次のような遺言を残しています。「マッカーサーや(米大統領の)トルーマンに言いたい。都市住民を狙った大量の無差別爆撃は戦争犯罪として裁くべきでないのか。この裁判はあまりに形式的であり特に末端の兵士に対する刑はあまりに過酷だ」。

 村の人たちは、どうして房代の助命嘆願書の署名に冷たかったのでしょうか。
 確かに、戦争犯罪人は責任を負うべきだというのは当然な感情です。問題はどう裁くかです。戦争犯罪人に対する連合軍(実質的にはアメリカ)の政策は、軍の最高司令官だった天皇の責任は一切問わず、戦争指導者であるA級戦犯として起訴した数も28人に絞る一方で(死刑宣告は7名)、現地で戦闘行為に携わったBC級戦犯を大量に厳しく処分するというものでした。起訴された者は5700人、うち984人に死刑を宣告しました。責任追及を求める国際世論に対してはBC級戦犯に対する重刑で答え、指導層は引き続き日本の指導者として温存する政策を取りました。公職追放も不徹底でした。天皇は平和主義者だったという事実と異なった宣伝がなされました。A級戦犯の裁判には日本人の弁護士がつき、3年半かけました。BC級の場合は、平均2日の裁判でした。事実誤認、通訳の誤訳も相当ありました。日本国内でBC級戦犯に関する裁判や家族の状況が自由に報道されていたならば、房代はすげなく追い返されずに済んだかもしれません。

この映画についての伊藤真法学館憲法研究所長のコメント
 
【映画情報】
製作:2008年 日本
監督:福澤克雄
脚本:橋本忍
遺書・原作・題名:加藤哲太郎「狂える戦犯死刑囚」
音楽:久石譲
時間:138分
出演:中居正広/仲間由紀恵/柴本幸/西村雅彦/草g剛/武田鉄矢/伊武雅刀/六平直政/笑福亭鶴瓶/上川隆也/石坂浩二/泉ピン子
上映館:全国東宝系にて公開中
公式サイト

 
                                                           

 

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