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映画「アメリカばんざい crazy as usual」


                                                           
K・T

イラク帰還兵(娘)の母のモノローグで始まる冒頭から、画面は一転、丘の斜面を埋め尽くす白い十字架。その数4000(08年3月24日時点)。イラクで死亡したアメリカ人兵士の墓標です。「けれど、私たちの4年分を、イラクの人たちは1ヶ月で喪っている」―それを語るのは、イラク戦争で自らの子どもを亡くしたアメリカ人夫婦なのです。

アメリカの人たちは今、何を考え、どう感じているのか。
日本人の藤本幸久監督がカメラに捉えたのは、元海軍兵士、イラク帰還兵、ホームレス、そして海兵隊ブートキャンプの姿。ドキュメンタリー映像の中で、インタビューに答える彼らの言葉に、一切の説明はありません。

元海軍兵士パブロは、大学での学問を続けたくて、学費のために海軍に入隊。けれどアフガニスタン攻撃の実態を知り、無辜の民を殺すことに耐えられなくなった彼は、日本人の妻詩織さんの一言で決意し、イラクへの派遣を拒否。軍法会議で処罰され、除隊。現在は、兵士人権ホットラインの仕事にとりくんでいます。従軍中の兵士の相談にのると共に、高校の授業に出向いて、軍のリクルーターが喧伝する“入隊のメリット”の大ウソ、その実態を語ります。
イラク帰還兵ダレルも、イラク派兵後PTSDに。“英雄”になることを望んだ彼も、3〜4人のイラク人ゲリラからの攻撃に対し、報復として100人ものイラク人を殺したと知り、精神を病むようになります。高校時代まで、ベースボールと女の子に夢中の明るい瞳の青年でした。その頃の写真と、イラク派兵後の写真とが画面に並ぶと、その目つきを見るだけで別人になってしまったことが分かります。
トムはホームレスでした。今はホームレス支援施設 “ブレッド&ローズ”で職員をしています。“ブレッド&ローズ”の近くの森で、ホームレス同士のささいな争いから殺傷事件が起きました。殺した方も、殺された方も、トムの知り合いでした。やりきれなさに涙をにじませながらも「(今の仕事が)つらいことはたくさんある。しかし、自分が救われたように、今度は他の人の手助けをする仕事に就くことで、自尊心をとりもどした」と語るトム。

彼らのインタビュー映像の合間に、パリスアイランド・海兵隊ブートキャンプの様子が映し出されます。家畜のように髪をかられる新兵。故郷の家族にかける電話で話せる文言は5センテンスに限られ、電話をかけている間中、教官が背後で「叫べ!叫べ!」と怒鳴り続けるのです。人間性の全てを剥ぎ取るブートキャンプのほんの一角でしょう。

しかし、この映画で描かれるのは悲惨な実態ばかりではありません。新兵募集事務所前でピケを張り、入口に“CLOSED”と貼り紙を張り付けては逮捕されるたくましいおばちゃんたち。拘留を解かれて出てくると「あーら、とってもていねいに扱ってくれたわよ」とあっけらかん。
ラストでは、ダレルはメキシコに移り、職を見つけて働き出したことがわかります。帰還後初めて彼は3ヶ月、辞めることなく仕事を続けることができたのです。久々のデートだ、と張り切る彼の瞳は、かつての明るさを取り戻したかのよう。
パブロも、将来妻の故郷である日本で暮らすために日本語の勉強中。たどたどしく“あいうえお”を綴る彼の姿に、エールを送りたくなります。ダレルも、パブロも、他者と関わることで自らを取り戻してゆく、その姿はブートキャンプの対極にあることが伝わってきます。

しかしながら監督がこの映画で伝えたかった、本当のメッセージは何だったのでしょうか。アメリカの今を描きながら、実は日本の未来を考えていたのではないかと思えてなりません。パブロの妻詩織さんが、インタビュアーに語るシーンがあります。「子供が小学校に上がるくらいになったら、日本に帰りたいんです。けれど」日本が、どんどんアメリカみたいになっているという話を聞く。せっかくアメリカを離れても、日本が同じようになっていたら…?「本当に、そんなにアブナイんですか?」インタビュアーが逆に質問されていました。
「本当に、そんなにアブナイんですか?」
憲法9条を有する日本の針路、詩織さんの問いに私たちは、どう答えるのでしょうか。

映画情報
製作:2008年 日本
監督:藤本幸久
時間:118分
上映館: ポレポレ東中野(東京・中野)で公開中

 
                                                           

 

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